「会社で使うホチキスとかハサミを自腹で買う」という、なんとも地味な問題について考えてみました。地味なのですが、よく考えると会社と従業員の関係が妙に表れている話でもあります。私の勤務先には、個人で使う文房具は自分で購入する、という昔からの慣習があります。ホチキスやハサミなども対象です。ところが、就業規則を確認してみると、そのようなことは書かれていません。正式な社内規程があるわけでもありません。どうやら前々から口伝で受け継がれてきたルールらしいのです。

しかし、その会社の新卒社員ではない中途採用の私はふと思いました。これって法律的には大丈夫なのでしょうか。調べてみると、労働基準法施行規則では、労働者に「食費、作業用品その他」の負担をさせる定めがある場合、その内容を労働条件として明示することになっています。また、就業規則についても、労働者に作業用品などを負担させる定めを設ける場合には、記載すべき事項とされています。

つまり、「会社の仕事で使うものを従業員に負担させる」という仕組みそのものが、直ちに違法というわけではありません。会社が一定のルールを設けて、従業員に作業用品を負担させることは想定されています。しかし釈然としないのは、「昔からそうだから」という部分です。たとえば自分の好きなボールペンを使いたいので自分で買う、というのなら何の問題もありません。自分の趣味や好みによるものだからです。私はプリンくんのボールペンを使っています。

ところが、「会社の書類を綴じるためにホチキスが必要です。しかし会社では用意しないので、自分で買ってください」となると問題でしょう。しかも「個人で使う」という言葉も、よく考えると不思議です。私だけが使うホチキスであっても、それを使っているのが会社の業務であり、退職するときには会社に置いていくのであれば、それは実質的には会社の備品に近いのではないでしょうか。

「私は左利きなので、自分が使いやすい特殊なハサミを買いました」というのであれば、個人負担でもさほど不自然ではありません。結局のところ、重要なのは「誰が使うか」よりも「何のために使うか」なのだと思います。つまり私が重要視しているのは「ホチキス代の100円を会社が払うべきか」という話ではありません。会社の業務を遂行するために必要なものを、どこまで従業員個人に負担させるのかという話です。そして、そのルールが就業規則にも社内規程にも書かれておらず、「昔からそうなっています」という口伝だけで維持されているとなると、少なくとも会社側には「なぜ従業員負担なのか」を説明してほしいところです。

もちろん、「就業規則に書いていないから自腹ルールは即違法」というわけではありません。そこまで単純ではありません。しかし、会社が従業員に費用負担を求めるのであれば、その根拠や範囲が明確になっているほうが望ましいでしょう。何より、ホチキスやハサミ程度の金額だからこそ、会社の考え方がよく見える気がします。

「これくらい自分で買えばいいじゃないですか」という会社と、「業務に必要なものだから会社で用意します」という会社では、従業員に対する基本的な考え方が少し違うように感じます。90円の菓子パンなら喜んで自腹で買うのに、会社のハサミとなると「なんでワイが買うんや・・・」と思ってしまう。人間というのは、金額だけでは納得感を測れないものなのかもしれません。