ヴァイオリンを弾いていると、大抵の曲で、盛り上がるところに高音が配置されています。小品ならサビにあたる部分、ソナタならその主題の聴かせどころにあたる部分ですね。目立つ部分なだけに、きれいに音を出したいと誰もが思うはず。でもうまくいきません。なにしろヴァイオリンはピアノとは異なり、鍵盤を押せばその音が出るという仕組になっていません。

ヴァイオリンは1mm弦を押さえる箇所がずれただけで微妙に違う高さの音が出てしまいます。がゆえに、一流と呼ばれるヴァイオリニストは同じ主題を繰り返すときでも1回目と2回目で異なった音程を用いることで味わいを出すことがしばしば。しかしアマチュアにしてみれば「毎回音が取れない!」という苦しみのもとでしかありません。

私が取り組んでいるブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」もやはり6th, 7thポジションくらいの高さの音が使われています。技巧を見せびらかすために用いられているのではなく、感情の高ぶりを示すためにそういう音になっているのは明らか。だからこそきれいに決めたいのですが、うまくいきません。

あれ、外れた。もう一度やってみよう。低い。もう一度やってみよう。あ、今度は高すぎた。この無限ループで毎日時間が失われていきます。一体どうすれば・・・。

では、この問題に特効薬はあるのでしょうか。残念ながら、少なくとも私は知りません。

YouTubeを見れば「高音を確実に取るコツ」だとか「ポジション移動が一瞬で上達する練習法」だとか、魅力的なタイトルの動画がいくらでも出てきます。しかし結局のところ、高音を正確に取るためには、高音を正確に取る練習を繰り返すしかないように思います。たとえば目的の音を押さえたら、その音の前後の音も確認してみる。開放弦との響きを確かめてみる。ピアノやチューナーで音程を確認してみる。そしてまた弾いてみる。その繰り返しです。

考えてみれば当たり前の話なのかもしれません。野球選手がバットを振らずにホームランを打てるようにはならないし、マラソンランナーが走らずに42.195kmを完走できるようにはなりません。ヴァイオリンもまた同じで、高い音を当てたければ高い音を当てる練習をするしかないのです。

もっとも、頭では分かっていても気持ちは別です。ブラームスの美しい旋律が目の前にあるのに、そのたびに音程が外れると少し落ち込みます。せっかく感情が盛り上がる場面なのに、自分の耳には「惜しい」「違う」「もう一回」という声ばかりが聞こえてくるからです。それでも面白いのは、ある日突然できるようになる瞬間があることです。

昨日まで何度やっても外れていた箇所が、今日弾いたらなぜか決まる。しかも一度だけではなく、何回やっても決まる。理由はよく分からないけれど、指が距離感を覚えたのでしょう。こういう経験をすると、練習とは決して無駄ではないのだと思います。

おそらく今の私に必要なのは、うまくいかないことを嘆くことではなく、外れるたびに淡々と修正することなのでしょう。ブラームスの高音は逃げません。今日外れても、明日また挑戦できます。

そう考えると、毎日失われているように思えた時間も、実は少しずつ積み上がっているのかもしれません。

もちろん本番になれば話は別です。練習室で十回に一回しか成功しない音は、舞台の上ではまず当たりません。しかし練習室で十回に九回成功するようになれば、本番でもかなりの確率で決まるでしょう。

だから今日もまた、例によって問題の箇所を弾きます。

あれ、外れた。もう一度。少し低い。もう一度。今度はぴたりと合った。

その一回のために、私は明日もヴァイオリンを弾くのです。そして本番。まあ大抵は失敗するでしょうね・・・。