人生はたった一度しかないので、なるべく多くのことを実現したいと思うのが人情というもの。しかし時間は限られていますし、能力的にも立場的にもやれることは限りがあります。つまりあれもこれも、は不可能だということです。

父親になると、どうしても子どもの世話で時間を割かれ、思うように仕事ができない、ということが起こりえます。他方で転職したり起業したりすると、自分のビジネスに集中しなければならないことから家族関係に十分な目配りができなくなる、ということだって起こりえます。

したがって人生のバランスを取ることは無理、と考えがちですね。でも、見方を変えるとすこし違うようです。グロービス経営大学院・学長の堀義人さん。グローバル・キャピタル・パートナーズの代表パートナーでもあります。子供は5人。起業して、子育てもして、水泳の大会にも果敢にチャレンジしています。一体どうやっているのか・・・。堀義人さんの答えは、
僕の答えは、明快だ。「短期的には、人生のバランスは取ることができない。しかし、長期的には、人生のバランスを取ることは可能だ」である。学びに集中する時機や社会で勝負する時機、家庭をつくり上げる時機など、何かを成し遂げる時に最も重要なのが、集中である。集中している間は、他を犠牲にしなければならない。しかし、ある程度時期が来て落ち着いてから、その犠牲にしていたものを、取り戻せばよいのだ。短期的には偏っているが、長期的にはバランスを取ることは可能なのだ。

(『人生の座標軸』より)
これを読んで、ああそうだ、と私も納得しました。1日単位で見ると何かに偏っていたとしても、長期的にみてバランスが取れるようになっていればいいわけです。なぜ気づかなかったんでしょう。勉強になったぜ。

ただ、この考え方は、口で言うほど簡単ではありません。なぜなら人間は「いま失っているもの」に強く心を引っ張られるからです。

仕事に集中していれば、「もっと家族との時間を取るべきではないか」と不安になる。逆に家庭や趣味に時間を使っていると、「このままでキャリアは大丈夫なのか」と焦りが生まれる。どちらを選んでも、選ばなかった側が気になってしまうのです。

しかも現代は、他人の人生が可視化されすぎています。SNSを見れば、仕事も家庭も趣味も完璧にこなしているように見える人が次々と現れる。しかし実際には、多くの場合、その人にも偏りの時期があります。見えていないだけです。

そもそも、人間の時間と体力には限界があります。24時間しかない以上、「全部を同時に最大化する」のは原理的に難しい。にもかかわらず、私たちはしばしば「仕事も成功させ、家庭も完璧にし、趣味も充実させ、健康も維持しなければならない」という無理な課題を自分に課してしまいます。

だからこそ、「いまは何に集中する時期なのか」を自覚することが重要なのだと思います。

受験期には勉強に偏る。子育て期には家庭に偏る。起業した直後は仕事に偏る。あるいは病気をしたなら、回復に全振りする時期だってあるでしょう。その偏り自体を失敗だと思わないことです。

そしてもう一つ大事なのは、「後で取り戻そう」と考えることです。

若いころ仕事一辺倒だった人が、中年以降に家庭を大切にするようになることもある。子育てで自分の時間を持てなかった人が、子どもの独立後に再び学び始めることもある。人生は一直線ではなく、季節のように重点が移り変わっていくものなのかもしれません。

結局のところ、人生のバランスとは、「毎日きれいに均等配分すること」ではなく、「長い時間をかけて納得できる配分に近づけていくこと」なのだと思います。

そう考えると、少し肩の力が抜けます。今日は偏っていてもいい。いまは、この時期にしかできないことに集中すればいいのだ、と。