フォーレというと『レクイエム』が突出して有名です。この他にも『ヴァイオリン・ソナタ』など優れた室内楽曲を多く残しています。今日の記事で取り上げる『ピアノ四重奏曲第1番』もそんな佳曲のひとつです。ハ短調という調性のせいなのか、どことなく憂愁の影に覆われたような雰囲気が漂っています。いや、この情緒を憂愁と言って良いのか・・・、フランスといっても光あふれる南部ではなく、北部ブルターニュのような薄めの輝き、とでも言えば当たらずと言えども遠からずでしょう。
フォーレの音楽を聴いていると、感情を大げさに爆発させる代わりに、胸の奥へ静かに沈み込んでいくような感覚があります。この『ピアノ四重奏曲第1番』にも、その独特の「内向きの熱」が満ちています。ブラームスの室内楽のように重量感で押し切るわけではない。ドビュッシーのように色彩で陶酔へ導くわけでもない。その中間の、曖昧で繊細な領域を漂っているのです。
第1楽章冒頭、ピアノが刻むリズムの上に弦が主題を歌い始めた瞬間から、作品はすでに完成された空気を持っています。若書きにありがちな力みが少なく、「自分の言葉」を見つけている作曲家の音です。旋律は甘美でありながら、どこか簡単には人を寄せつけない。その絶妙な距離感がいかにもフォーレらしい。ロマン派の音楽でありながら、感情を「語りすぎない」美学があります。これは絶妙なバランス感覚ではないでしょうか。ロマン派というと、どうしてもマーラーのように自分の言いたいことを1時間以上かけて(しかも巨大オーケストラを使ってまで)訴えかけるなんていう表現がかなり幅を利かせていますからね・・・。
私が特に好きなのは第2楽章スケルツォです。この楽章、初めて聴いた時には「なんだこれは」と思いました。軽やかで、跳ねるようで、どこか幻想的。しかし聴き進めるうちに、不思議な中毒性があることに気づきます。ピアノの細かな動きの上を弦が舞っていく様子は、水面に反射する光の揺らぎのようです。しかも単なる優雅さだけで終わらず、ときおり翳りが差し込む。その明暗の交錯が実に見事です。
そして終楽章。ここでフォーレは、内に秘めていた情熱を一気に解き放ちます。ただし、それでもなおワーグナー的な劇的爆発にはならない。どれほど高揚しても、どこか知性が感情を制御しています。この「熱狂しきらない熱」が、私はたまらなく好きなのです。ドイツ人みたいに理想まっしぐらでエイエイオーみたいな雰囲気、そういえばフランス音楽で一度も感じたことがないのですが、これが国民性というやつでしょうか。
クラシック音楽には、聴いた瞬間に圧倒される作品があります。一方で、何度も繰り返し聴くうちに、じわじわと身体へ浸透してくる作品もあります。フォーレの『ピアノ四重奏曲第1番』は間違いなく後者でしょう。派手な名曲ランキングにはあまり顔を出しません。しかし気づけば、曇り空の日にふと聴きたくなる。そんな種類の音楽です。
晴天ではなく、薄曇り。その空の下で静かに光る海の色。フォーレのこの作品には、そんな風景がよく似合います。
第1楽章冒頭、ピアノが刻むリズムの上に弦が主題を歌い始めた瞬間から、作品はすでに完成された空気を持っています。若書きにありがちな力みが少なく、「自分の言葉」を見つけている作曲家の音です。旋律は甘美でありながら、どこか簡単には人を寄せつけない。その絶妙な距離感がいかにもフォーレらしい。ロマン派の音楽でありながら、感情を「語りすぎない」美学があります。これは絶妙なバランス感覚ではないでしょうか。ロマン派というと、どうしてもマーラーのように自分の言いたいことを1時間以上かけて(しかも巨大オーケストラを使ってまで)訴えかけるなんていう表現がかなり幅を利かせていますからね・・・。
私が特に好きなのは第2楽章スケルツォです。この楽章、初めて聴いた時には「なんだこれは」と思いました。軽やかで、跳ねるようで、どこか幻想的。しかし聴き進めるうちに、不思議な中毒性があることに気づきます。ピアノの細かな動きの上を弦が舞っていく様子は、水面に反射する光の揺らぎのようです。しかも単なる優雅さだけで終わらず、ときおり翳りが差し込む。その明暗の交錯が実に見事です。
そして終楽章。ここでフォーレは、内に秘めていた情熱を一気に解き放ちます。ただし、それでもなおワーグナー的な劇的爆発にはならない。どれほど高揚しても、どこか知性が感情を制御しています。この「熱狂しきらない熱」が、私はたまらなく好きなのです。ドイツ人みたいに理想まっしぐらでエイエイオーみたいな雰囲気、そういえばフランス音楽で一度も感じたことがないのですが、これが国民性というやつでしょうか。
クラシック音楽には、聴いた瞬間に圧倒される作品があります。一方で、何度も繰り返し聴くうちに、じわじわと身体へ浸透してくる作品もあります。フォーレの『ピアノ四重奏曲第1番』は間違いなく後者でしょう。派手な名曲ランキングにはあまり顔を出しません。しかし気づけば、曇り空の日にふと聴きたくなる。そんな種類の音楽です。
晴天ではなく、薄曇り。その空の下で静かに光る海の色。フォーレのこの作品には、そんな風景がよく似合います。

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