谷桃子バレエ団はYouTubeチャンネルを開設しています。・・・いや、今どきYouTubeを広報活動に役立てているのは当たり前ですよね。しかしこのYouTubeチャンネル、かなりヤバめな内容なのです。どんな内容なのかというと、「お金がない」「週5でバイトをしないと生活が成り立たない」みたいな切実な内容なのです。

バレエというと華やかな世界に思えます。『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』などは劇場で鑑賞してみると本当に現実離れした世界で、舞台の上はものすごくきらびやかなもの。しかしその裏にはチケットノルマなどの泥臭い世間が広がっているのでした。チケットノルマというのは出演者がチケットを買い取って友人などに売りさばくというもの。売れ残ったら自腹を切る羽目になります。でも映画よりはるかに高くて映画より面白くない(失礼!)なバレエのチケットを自発的に買う人って少数派なのです・・・。

『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』はそういうバレエ団の様子をずっと撮影し続けて動画編集してYouTubeに公開するという様子を書き綴っています。著者は渡邊永人さん。しかし本当に切実な内容・・・。



こういう動画を出し続けていると、さすがに批判が殺到したとか。たしかに再生回数は伸びていますが、こんな切実な切り口でバレエ団を取り上げた動画なんてこれまでありませんでした。それが目新しさでもあり、話題性にもつながり、ひいてはチケットの売れ行きにも影響するわけですから悪いことばかりではありません。しかし取材されるダンサーの側としても練習場所に週刊誌の記者が踏み込んでくるような気持ちになるわけであって、渡邊永人さんと団員の間には心理的に距離がありました(そらそうよ)。本人としてはダンサーを幸せにするつもりで取材をしていたのに、真逆の形で当事者は受け止めていたわけです。

このようにだんだんと溝が深まってきた結果話し合いをすることになり、最終的には引き続き渡邊さんが動画製作を継続することになりました。結果的にあるときのガラ公演のチケットが発売開始から4時間で売り切れてしまい、追加公演を行うことを決めるほどの話題性を獲得します。

結局のところ、賛否両論のギリギリの路線で成功したというのが実情なのでしょうけれども、バレエのことを何一つ知らないまま渡邊さんが取材を始め、人間同士の衝突に悩みつつも自分なりに答えを出してゆく、という奮闘の記録になっています。

「愛の反対は無関心」という言葉があります。谷桃子バレエ団のみなさんも、渡邊さんも時には衝突しながらも信頼関係を深め、やがて少しずつムーブメントを読んでいく様子を読むと、ひとつのバレエ団を運営していくことの難しさについて考えさせられます。
このようなYouTubeチャンネルがバレエについて詳しく知らなかった人の好奇心を刺激し、一人でも多くの人が劇場に足を運んでいただくきっかけになったら、と思わざるを得ません。