新聞報道では、王子HDが退職金を廃止する、と書かれていました。え、それって一体どういうこと? 記事を読んでみると・・・。
王子ホールディングス(HD)は18日、今年4月以降に入社する社員を対象に退職一時金を廃止することを明らかにした。早くから資産形成を進めたい若手や中途採用者が増えており、退職金に充てていた原資で給与や年金の拠出額を引き上げる。2月上旬に労働組合と合意したという。今の退職給付制度は、一時金と確定拠出年金が50%ずつで構成されている。
同社によると、4月以降に入社する新卒や中途採用の社員は、一時金がなくなる代わりに、給与の上乗せや会社が拠出する年金の掛け金の増額を選べるようになる。(以下略)(朝日新聞「王子HD、退職一時金を廃止へ 今春採用者から給与や年金を引き上げ」2026年3月18日)
給与の上乗せ。一瞬、毎月の給与が上がるので良いよね、と思いました。でも毎月の給与として受け取るのと、退職金で受け取るのでは全然違うのです。
毎月の給与としてたとえば3万円を受け取るとします。すると、そこに所得税、雇用保険料、健康保険組合保険料、厚生年金保険料が発生します。つまり額面は3万円でも、実際に銀行に振り込まれるのは2万6千円程度に目減りするということです。また、社会人2年目からは前年の所得に応じて住民税も発生します。この3万円に対しても(年額36万円になる)、住民税は発生します。
さらに! 前述の健康保険組合料と厚生年金保険料は、通常「毎月決まって支給される金額+1ヶ月分の通勤手当」で決まりますから、そういう退職金を毎月前払いで受け取るという設定にするとこれらの負担額も増加するので、その分手取りも減ることになります。ちなみに健康保険組合料も厚生年金保険料も事実上の掛け捨て(自分がたくさん払ったからといって、必ずしもその分自分に還元されるわけではない)です。
一方、退職金はどうか。退職金というのは、大幅な税制優遇が認められています。
計算式として、
勤続年数20年以下の場合 40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超の場合 70万円×(勤続年数-20年)+800万円
これが「退職所得控除額」とされ、たとえば「勤務3年で退職金は100万円」の場合、40万円 x 3年=120万円。退職金が120万円に満たない場合は、所得税+復興税+住民税は0円です。退職金に対して社会保険料は発生しません。
というわけで、退職金は退職時点でもらうほうが税という面から見ると圧倒的に有利なのです。
では、なぜ企業はあえて「税制上不利」に見える制度へ舵を切るのでしょうか。ここで重要なのは、制度の前提となっている「働き方そのもの」が変わりつつあるという点です。
従来の退職金制度は、長く同じ会社に勤め上げることを前提に設計されています。勤続年数が長いほど控除額が増え、結果として税制メリットが最大化される仕組みです。つまり、終身雇用と強く結びついた制度なのです。しかし現実には、転職はもはや特別な選択ではなくなりつつあり、企業側も人材の流動化を前提に制度設計を見直さざるを得なくなっています。
企業から見れば、退職時にまとめて大きな資金を支払うよりも、毎月の給与や確定拠出年金として分散して支給するほうが、コストの見通しが立てやすくなります。また、従業員側にとっても「いつ辞めても損をしにくい」設計になるため、採用競争の観点では一定の合理性があります。特に中途採用者にとっては、退職金の「積み上がり」を待たなくてよい点は魅力といえるでしょう。
ただし、ここで冷静に考えるべきは、「流動化に適した制度=個人にとって有利な制度」とは限らない、ということです。税制優遇の消失は確実に個人の可処分所得を削りますし、社会保険料の増加も長期的には無視できません。制度が変わる以上、個人はその分、自ら資産形成を設計する必要が出てきます。
結局のところ、この変化は「会社が面倒を見てくれる時代」から「自分で最適化する時代」への移行を意味しています。退職金という強力な優遇制度が薄れる中で、iDeCoやNISAなどを活用し、自分で擬似的な退職金を作る発想が、これまで以上に重要になってくるでしょう。
従来の退職金制度は、長く同じ会社に勤め上げることを前提に設計されています。勤続年数が長いほど控除額が増え、結果として税制メリットが最大化される仕組みです。つまり、終身雇用と強く結びついた制度なのです。しかし現実には、転職はもはや特別な選択ではなくなりつつあり、企業側も人材の流動化を前提に制度設計を見直さざるを得なくなっています。
企業から見れば、退職時にまとめて大きな資金を支払うよりも、毎月の給与や確定拠出年金として分散して支給するほうが、コストの見通しが立てやすくなります。また、従業員側にとっても「いつ辞めても損をしにくい」設計になるため、採用競争の観点では一定の合理性があります。特に中途採用者にとっては、退職金の「積み上がり」を待たなくてよい点は魅力といえるでしょう。
ただし、ここで冷静に考えるべきは、「流動化に適した制度=個人にとって有利な制度」とは限らない、ということです。税制優遇の消失は確実に個人の可処分所得を削りますし、社会保険料の増加も長期的には無視できません。制度が変わる以上、個人はその分、自ら資産形成を設計する必要が出てきます。
結局のところ、この変化は「会社が面倒を見てくれる時代」から「自分で最適化する時代」への移行を意味しています。退職金という強力な優遇制度が薄れる中で、iDeCoやNISAなどを活用し、自分で擬似的な退職金を作る発想が、これまで以上に重要になってくるでしょう。
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