ヴァイオリンのレッスンをしているとメモが取れない・・・。そう思いませんか。何しろ左手は楽器を持っています。右手は弓を持っています。鉛筆を持つ余地はありません。手がもう一本必要になります。だからメモが取れません。一応取ることは不可能ではないのですが、けっこう手間がかかります。右手の弓をどこかに一旦置いて鉛筆を掴む。楽譜の端っこのほうに(汚い字で)メモを取る。左手で紙を押さえられないので書きづらいこと書きづらいこと。鉛筆を置く。また弓を掴む。

このように単純な動作であっても楽器をどこかに置くというひと手間が入ることによってものすごく面倒な作業になります。必然的に先生のありがたいおことばもあまりメモが取れません。

すると、その時のレッスンで言われたことも寝たら消滅してしまい元の木阿弥。金を払って教わりに言っているのに教育効果がものすごく低い・・・。

ではどうすればよいのでしょうか。私なりにいくつか試してみて、いちばん効果があった方法があります。結論から言えば、「レッスン直後にまとめてメモを書く」というやり方です。

レッスン中に完璧に記録しようとするのは、そもそも無理があります。楽器を持ったままでは手が足りないのですから、これは構造的な問題です。そこで発想を変えて、レッスン中はメモを取ることを半ばあきらめる。その代わり、レッスンが終わった瞬間に、覚えていることを一気に書き出します。

たとえば喫茶店に入ってコーヒーを注文し、ノートを開きます。そして「今日言われたこと」を思い出しながら箇条書きにしていきます。弓のスピード、左手の形、フレーズの方向、音程の注意点、練習方法など、断片でもいいのでとにかく書く。すると不思議なことに、思い出そうとすると記憶が芋づる式に出てくるのです。

「あ、そういえば最初に弓の角度を直されたな」
「そのあとで開放弦の音が軽いと言われた」
「ビブラートの幅が広すぎるとも言われた」

こんな具合に、連想ゲームのように記憶がつながっていきます。人間の記憶というのは面白いもので、完全に消えてしまうわけではなく、少しきっかけがあればかなり復元できるものです。もちろんレッスン中にその場で書くほど正確ではありませんが、それでも何も残らないよりははるかにましです。

さらにもう一つ大事なポイントがあります。それは「自分の言葉で書く」ということです。レッスン中に先生の言葉をそのまま書き写そうとすると、どうしても作業が遅くなります。しかしレッスン後にまとめる場合は、「つまりこういうことだな」と自分なりに解釈して書くことになります。これが意外と理解の助けになるのです。

人から言われたことを、そのまま受け取るだけでは身につきません。一度自分の頭の中で整理し、「自分の言葉」に変換して初めて定着します。そう考えると、レッスン後のメモ作りは単なる記録ではなく、復習そのものと言えるかもしれません。

最近はスマートフォンの録音機能を使う人もいるようですが、私はあまりやっていません。録音してしまうと、あとで聞けばいいやと思ってしまい、結局聞かないままになるからです。その点、手で書いたメモは不思議と読み返します。紙に残っているというだけで、心理的な重みが違うのでしょう。

ヴァイオリンのレッスンというのは、時間にすればせいぜい30分や1時間程度です。しかしその中には、演奏を改善するためのヒントがいくつも詰まっています。それを何も残さず帰ってしまうのは、やはりもったいない・・・。(というかもろに昔のワイ)

手がもう一本あればメモも取れるのでしょうが、残念ながら人間はそういう構造にはなっていません。だからこそ、自分なりのやり方で知恵を絞る必要があります。レッスン後のメモ作りは地味な作業ですが、教育効果を高めるうえで、意外と侮れない習慣なのです。