2026年2月28日、新国立劇場で開催された「エトワールへの道程2026」。今年もこの季節が巡ってきました。今回はバレエ研修所第21期研修生たちが、修了という大きな節目を飾る舞台です。客席には独特の緊張と期待が入り混じり、幕が上がる瞬間を待つ空気そのものが、すでにひとつのドラマのようでもありました。

まずはリヒャルト・ワーグナー作曲『タンホイザー』の行進曲にのせた華麗な群舞。重厚な旋律が劇場を満たすなか、整然としたフォーメーションが次々と展開されます。足さばきは正確で、腕の運びには柔らかな余韻があり、若さゆえの勢いと、研修を積み重ねてきた確かな基礎とが美しく同居している。統率のとれた動きの中に、それぞれの個性がほのかに光り、観ているこちらの胸にまで誇らしさが込み上げてくるようでした。

続いて、クロード・ドビュッシーの音楽に乗せた「En Bateau」。振付はデヴィッド・ビントレー。本来は2020年にお披露目されるはずが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止となり、今回が待望の初舞台化とのことです。舞台背景にはジョルジュ・スーラの「アニエールの水浴」が映し出され、19世紀後半のセーヌ河畔の情景が広がります。まだ第一次世界大戦の影すら差していない、ある意味での黄金時代。教養ある人々が穏やかな午後を過ごす、光に満ちた時間。その静謐と優雅が、若い研修生たちの身体を通して立ち上がる様は、どこか懐かしく、そして切ない。彼らの瑞々しさと、失われた時代への郷愁とが不思議に響き合い、客席に柔らかな余韻を残しました。

その後は第21期生による自作自演。「Warmth」と「Heat」。題名の対比が示す通り、内に秘めたぬくもりと、外へ放たれる情熱が対照的に描かれます。動きの構成や空間の使い方にはすでに成熟の兆しがあり、「大人の作品」と言われても違和感がない完成度。若いからこそ描ける直截さと、すでに芽生えている作家性。その両方を感じさせる小品で、今後の成長への期待が自然と高まります。

「タリスマン」よりパ・ド・ドゥでは、支える側と支えられる側の呼吸が寸分違わず重なり、堅牢ともいえる安定感を見せました。リフトの一瞬一瞬に信頼が宿り、技巧が単なる技術にとどまらず、物語を紡ぐ言葉となっているのが印象的です。
 
そして白鳥の湖第3幕より黒鳥のパ・ド・ドゥ。あまりに有名な場面ゆえ、幾度も観てきた方も多いでしょう。華やかなヴァイオリン・ソロに導かれ、王子を誘惑する黒鳥の踊りが始まります。鋭くも妖艶な視線、羽ばたきを思わせる腕の動き。確かに鳥の気配を感じさせながらも、そこには人間の野心と誘惑のドラマが凝縮されています。

最後は眠れる森の美女第3幕終幕。青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥをはじめ、猫や狼など多彩なキャラクターたちが次々と登場し、それぞれの個性を躍動させます。祝祭的な華やぎが舞台いっぱいに広がり、やがて大団円へ。修了という節目にふさわしい、晴れやかなフィナーレでした。

若い踊り手たちが歩み始める新たな道。その第一歩を見届けたという充実感とともに、来年もまたこの舞台に足を運びたい、そんな思いを胸に、劇場を後にしました。