もはやタイトルのとおりです。ネット広告でこんなわけのわからん商品を見つけました。

amati

これはアリエクスプレス(AliExpress)という中国の通販サイトの画像です。
1560年のアマティのヴァイオリンをコピーしたというヴァイオリンが46,000円程度で購入できるという触れ込み。

おいおい、中国の人件費がいかに安いからといってそんなに安く買えるわけないだろ!

今から20年以上昔の、デフレと言われていた日本(当然、コロナ後の物価上昇が起こる前)において、ヴァイオリンの初心者セット(本体、弓、ケース)が5万円でした。それでも最低限の工業製品という立ち位置でした。私はこれでヴァイオリンを始めました。さらにミュートと肩当てが別売りだったのは痛い出費でした。

それから25年の歳月が経過して、ハンドメイドのヴァイオリンがこの価格なんてありえません。
まあ間違いなく、「届いた商品がサンプル画像と全然違うじゃないか!」というパターンでしょう。

ハンドメイドのヴァイオリンならどんなに安くても50万円はします。現に、私は2017年にストラディヴァリウス「イル・クレモネーゼ」を参照して製作されたヴァイオリンを70万円で購入しました。今ならおそらく100万円くらいはするでしょう。

本来ならそれくらいの価格で取引されるものが、5万円を切る価格で販売されるはずもなく、まあ粗悪品だと言って間違いないでしょう。一体どんな奴がこんなの買うんだよ・・・。

・・・と、ここまで書けば、だいたい私が何に驚愕したかは伝わるでしょう。

問題は「安いこと」そのものではありません。初心者が気軽に手に取れる価格帯の楽器が存在すること自体は、むしろ健全です。現に私自身も、5万円の初心者セットからヴァイオリンを始めました。ただしそれは、あくまで「最低限の初心者のセット」としての売られ方をしていたから「まあワイにはこんなもんかな」と思えたのです。

しかし今回のこれは予想の斜め上すぎました。「1560年のアマティをコピー」「ハンドメイド」、そうした言葉を平然と掲げて、5万円を切る価格で売る。そりゃ今は円安です。日本円に換算したら安くなるのはわかります。しかし安さ加減にもはや呆れるしかありません。

アマティとは何か。アンドレア・アマティとは、ヴァイオリンの原型を確立し、ストラディヴァリやグァルネリへと連なる系譜の源流です。アーチング、f字孔、アウトライン、ニス。そのどれもが数百年の蓄積の上に成り立っています。それを「コピーしましたあ」の一言で済ませられるほど、ヴァイオリンという楽器は簡単ではないです。

少し考えれば分かる話です。1560年のアマティを参照するには、実物あるいは精密な計測データが必要です。板厚分布、アーチの連続曲線、エッジの処理、ニスの層構造。木材の選別から製作、乾燥まで含めれば、どれだけ効率化しても5万円で成立するはずがありません。中国の人件費で回収するとかいうレベルをはるかに超えています。

実際に届くものは、おそらく「アマティ風の形をしたやつ」でしょう。荒取りされた胴体、やたら厚く塗られたニス、鳴らない以前に音程すら怪しい構造。ヴァイオリンではあるが、楽器とは言い難い代物です。

それでも、これを買う人はいます。理由は単純で、「知らない」からです。名器の名前、物語性、夢。それらを安く手に入れた気になれるからです。しかしその結果、「ヴァイオリンはこういうもんじゃいガハハ」という誤解が量産されていくとしたら、それはあまりにも不幸です。

楽器は嘘をつきません。価格もまた、ある程度までは正直です。5万円の楽器には5万円なりの理由があり、70万円の楽器には70万円分の積み重ねがあります。「奇跡の一品」を期待するのは、宝くじを人生設計に組み込むようなものです。

結局のところ、この手の広告が示しているのは技術革新でも価格破壊でもありません。ただひとつ、「楽器を知らん奴が、楽器の世界に土足で踏み込んできた」という事実だけです。だから私は、この広告を見て何より嗤いが込み上げてきました。ブログ記事のネタになったからまあいいか。