「引き寄せの法則」という言葉があります。簡単に言ってしまうと、強く心の底から願っていれば、現実化するというもの。他にもマーフィーの法則というのもありますが、似たようなことが言われています。そのためには、毎日潜在意識に落とし込めるほどまでにしっかり念じなければならないそうです。しかも、「〇〇にならない」のような否定形を用いるのではなく「〇〇になる」といったセンテンスであるべきだと言われています。
別の言い方をすると、「ポジティブな思考や感情は良い現実を、ネガティブなものは悪い現実を引き寄せる」という、思考が現実を形作るという信念のようですね。磁石のように自分と似たエネルギーが引き合う仕組みで、望む未来を鮮明にイメージし、前向きな感情を持つことで目標を実現できるとされています。でも「磁石のように」って、私友だちいないんですけど。
でもそもそも、これって本当に「法則」って言えるほどまでに確立された原理原則なんでしょうか。フレミングの左手の法則とかオームの法則なんかは、世界中で再現可能です。でも「引き寄せの法則」は、実際にそれで成功した人は「こうしたからうまく行った」と主張できますけれども、うまく行かなかった人は「念じ方が弱い」と言われて終わり。なんだか検証しようがないですね。
そもそも「法則」と名乗る以上、本来は①条件が明確で、②誰がやっても同じ結果が出て、③反証可能である必要があります。ニュートン力学でも量子力学でも、どんなに難解でもこの三点は外れていません。だからこそ「それは違う」と批判され、修正され、理論として鍛え上げられてきました。
一方で引き寄せの法則はどうでしょうか。
一方で引き寄せの法則はどうでしょうか。
条件は曖昧、結果は事後的に解釈され、失敗は本人の「心の持ちよう」に還元されます。これは法則というより、かなり出来の良い物語に近い。成功した人の体験談だけを集め、「ほら、やっぱり効くでしょう?」と言われても、それは宝くじ当選者が「信じる奴は当たるんやで」と言われているようなものです。
そりゃ、心理学的に説明できる部分は確かにあります。
ポジティブな目標を言語化すれば行動が変わり、行動が変われば結果が変わる。これは「自己成就予言」や「確証バイアス」と呼ばれる現象で、実証研究もあります。しかしそれは「思考が磁力を持つ」からではなく、「人間の認知と行動がそういう癖を持っている」からです。つまり魔法ではなく、かなり人間くさい話です。
さらに厄介なのは、引き寄せの法則が責任の所在をすべて個人に押し戻す点でしょう。
病気になったのも、貧困に陥ったのも、人間関係がうまくいかないのも、「ネガティブな波動を出した奴が悪い」。これは一見ポジティブですが、実際には非常に冷酷です。構造や運、不確実性といった現実の要因を、きれいさっぱり無視してしまう。
要するに、引き寄せの法則は「信じれば元気が出る人には効くサプリ」のようなものかもしれません。ただし、それを科学と呼ぶのは無理があります。
科学は慰めてくれませんが、その代わりに嘘をつかない。少なくとも「うまくいかなかったのは、あなたの念じ方が足りないからです」などとは言わないのです。
さて、では私たちは何を信じればいいのでしょう??
う~ん、それは「現実は思考だけでは動かないが、思考なしでも動かない」という、あまり格好よくない結論なのかもしれません・・・。
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