広島県尾道市(生口島)にある耕三寺(こうさんじ)とその博物館。これはしまなみ海道を通る時にぜひ訪れておきたい場所です。以前このブログで取り上げた平山郁夫美術館から徒歩1分ほどのところにあるので、この二つを続けて訪れるのがよいでしょう。元実業家耕三寺耕三(こうさんじ こうぞう)が慈母への思いを込めて建立したのがこのお寺です。丘の斜面に建設されているので、お参りするときは少しずつ登りながらとなります。丘の頂上には、「未来心の丘」という5,000平方メートルもある大理石の庭園があります。これがすごいのです。

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なんじゃ、これが本当に寺か? と思うこと間違いなし。しかしお寺の敷地の一部です、本当に。
当博物館が芸術活動の一環として、取り組んでおりますこの「未来心の丘(みらいしんのおか)」は、広さ5,000平方メートルにもおよぶ白い大理石の庭園で、世界を舞台に活躍されている彫刻家  杭谷一東(くえたにいっとう) 氏にその制作を依頼しているものです。
ここに使用されている大理石のすべては氏のアトリエ(仕事場)があるイタリア・カッラーラで採掘し、コンテナ船で運んできています。丘にそびえ立つ大小様々な形をしたモニュメントや広場、道... 氏は制作に当たっては常に、その石のひとつひとつと対話し、また周囲の景色の形や色、風雨、光といったあらゆる自然との調和(バランス)も考えて創造してこられました。

(耕三寺博物館公式サイトより)
たしかにこの白い大理石は日本という感じがしません。どちらかというと地中海みたいな・・・。そしてイタリアだからミケランジェロとからベルニーニかというとそうでもなく、仏教の教えをじつは象徴している造形になっているのでした。うーむさすがアーティスト。

丘の頂上からは瀬戸内海を一望のもとに見渡すことができます。白い大理石に囲まれてこんなパノラマを楽しむなんて、一生に何度もできるものではありません。(私もこれが最初で最後だったと思います。)

未来心の丘を歩いていると、ここが「観光地」なのか「宗教施設」なのか、あるいは「屋外美術館」なのか、だんだんとその境界が曖昧になっていく感覚にとらわれます。白い大理石は強烈な存在感を放ちながらも、不思議と押しつけがましさがありません。むしろ、瀬戸内の穏やかな海と空を背景にして、静かに「考える時間」を差し出してくる場所だと感じました。

未来心の丘という名前から、私は最初、未来志向の抽象的なものかなと勝手な想像をしていました。しかし実際に立ってみると、そこにあるのは未来への昂揚感というよりも、内省的な空気です。白一色の世界は、色彩による情報を極端に削ぎ落とし、訪れる者の思考を内側へと向かわせます。煩雑な日常から切り離され、自分自身と対話するための空間だと考えたほうが良いとすら思えてきます。

考えてみれば、耕三寺そのものが、創建者・耕三寺耕三の個人的な祈りと思想から生まれた場所です。母への報恩という私的な動機が、やがてはこのような壮大な日本の近代宗教文化の一つの極端な表れなのかもしれません。伝統仏教の形式に忠実であることよりも、「何を伝えたいか」「何を感じさせたいか」を優先した結果が、この独特な形状となっているのだと思いました。

しまなみ海道はサイクリングの名所として知られていますが(といっても実際には自動車で通行する人のほうが圧倒的に多いのだが)、ここ耕三寺は、スピードや達成感とは正反対の価値を提示してきます。自転車を降り、足を止め、ゆっくり登り、立ち止まり、考える。平山郁夫美術館でシルクロードの時間軸に身を委ねたあと、未来心の丘で空間そのものと向き合う、この二つを続けて体験できる生口島は、瀬戸内の島々の中でもかなり特異な場所だと言えるでしょう。

派手さや分かりやすさを求める人には、正直なところ向かないかもしれません。しかし、違和感を楽しめる人、簡単に意味づけできないものに立ち尽くせる人にとっては、忘れがたい体験になるはずです。少なくとも私にとって、未来心の丘は「また行きたい場所」ではなく、「一度行ってしまった場所」として、静かに心の中に残り続けています。すごい光景だった・・・。