パクパクって言ってもなんのことか全く分からない人のほうが多数派だと思います。パクパクというのは、岡山県を中心に西日本で展開する激安スーパー「ラ・ムー」「Dio」に併設されている飲食店のこと。飲食店といってもメニューは絞り込まれており、たこ焼きとソフトクリームが主力、というかそれ以外ありません(かき氷もあるらしいが未確認)。

価格がバグっています。100円。税込です。それでたこ焼きなら6個、ソフトクリームはバニラ、チョコ、またはミックスの3種類。今時100円でソフトクリームが食べられるなんて、30年前の物価です。いや消費税導入前の時代の物価です。

だったら不味いのか、というとそんなことはありません。オーソドックスなおいしさ。これで100円というのですから一体どういう企業努力なのか分かりません。分かりませんがとにかく安い。見かけたらソフトクリームを買わない手はありません。というわけで私も正月明けだというのにチョコ味を頼みました。

この安さを前にすると、どうしても「理由」を考えてしまいます。原材料費、人件費、光熱費、物流費。どれを取っても値上がりの話しか聞かない昨今に、税込100円という価格を維持できるのはなぜなのか。答えはおそらく、単一の工夫ではなく、徹底した割り切りの積み重ねなのだと思います。

まず、立地がスーパー併設であること。ラ・ムーやDioは郊外型が多く、家賃負担は都市部の飲食店に比べれば低いはずです。しかも客層は最初から確保されている。買い物ついでに立ち寄る人が多く、「集客のための広告費」がほぼ不要です。これは飲食業において極めて大きい。

次に、メニューの少なさ。たこ焼きとソフトクリーム。ほぼ二択です。仕込みは単純、廃棄ロスも最小限、オペレーションは誰でも短期間で習得できる。回転率が高く、注文に迷う時間すらありません。現代的な「選択肢の多さ」が一切ないのに、なぜか不満もない。むしろ清々しい。

さらに言えば、味の方向性も「奇をてらわない」。映えるトッピングも、濃すぎる甘さもない。子どもから高齢者まで、誰が食べても「まあ、こういうのでいいんだよ」と思える味です。ここにも無理をしない姿勢が感じられます。

ラ・ムーやDio自体も、もともと安さで勝負する業態です。PB商品が多く、内装は簡素、BGMすら控えめ。その哲学がパクパクにもそのまま反映されているように見えます。豪華さを削ぎ落とし、価格という一点に全力投球する。その覚悟が100円という数字に表れているのでしょう。

考えてみれば、100円のソフトクリームを食べて「すごい」と感じる体験自体が、今では珍しくなりました。安さに驚き、しかも満足して帰る。これは単なる懐古ではなく、現代の消費社会における一種の異物感です。

パクパクは、派手さもストーリー性もありません。ただ、そこにあり、黙々と100円を守り続けている。その姿勢が、妙に胸を打つのです。正月明けのチョコ味ソフトクリームは、甘さ以上に、企業努力の味がしました。