ジョン・ラターの『レクイエム』は、1985年に発表された比較的新しい合唱作品ですが、世界中で広く親しまれている名曲です。ラターはイギリスを代表する現代の作曲家で、温かみのある旋律や透明感あふれる響きを得意としており、この『レクイエム』にもその魅力が凝縮されています。てっとり早く言うと、フォーレの『レクイエム』と系統は同じです。聴いていて癒やされるタイプの音楽だということです。

作品は全7曲からなり、ラテン語の典礼文に加えて英語の詩篇も組み込まれています。たとえば第2曲には詩篇130篇「深き淵より」、第6曲には詩篇23篇「主はわが羊飼い」を用いるなど、英国聖公会的なテキストの要素が見られるのが特徴です。編成はソプラノ独唱、混声合唱、オルガン、管弦楽で演奏され、室内オーケストラによる小編成版もあり、教会やホールで幅広く上演可能となっています。

全体を通じて音楽は厳しさや恐怖を前面に出すのではなく、柔らかく慰めに満ちています。従来のレクイエムにしばしば含まれる「怒りの日(Dies irae)」のような劇的な場面はなく、むしろ静かな祈りと安らぎの雰囲気が支配的です。特に第3曲「Pie Jesu」はソプラノ独唱による清らかな旋律で、ラター作品の中でもとりわけ人気を集めています。終曲「Lux aeterna」では穏やかな光に包まれるような響きで締めくくられ、聴く人に大きな安心感を与えてくれます。

先に述べたフォーレもまた「怒りの日」を省略し、亡くなった人の魂を慰め、遺された人々に安らぎを示すことを目的としました。両者とも「Pie Jesu」を中心に据え、ソプラノ独唱によるシンプルで美しい祈りを聴かせる構成になっています。また規模も比較的コンパクトで、40分前後の演奏時間に収まる点も共通しています。さらに、フォーレが最後に「In Paradisum」を置いて天国への旅立ちを描いたように、ラターも「Lux aeterna」で永遠の光を歌い上げ、希望を示す形で終曲を結んでいます。

もっとも、両者には違いもあります。フォーレは典礼文をフランス・カトリックの伝統に沿って作曲しましたが、ラターは英語の詩篇を組み込むことで英国聖公会的な色彩を加えています。また音楽の語法においても、フォーレがロマン派的な流麗さと豊かな和声感をもっているのに対し、ラターはより明快で透明感のある旋律を特徴とし、ときに映画音楽を思わせる親しみやすさを持っています。そのため、クラシック音楽に詳しくない人でも比較的抵抗なく聴き入ることができるのも魅力のひとつです。

ジョン・ラターの『レクイエム』は、死や別れを主題としながらも、悲嘆よりもむしろ慰めと希望に光を当てています。人の心に寄り添う旋律と優しい響きは、宗教的背景を持たない聴き手にも深く届き、静かな感動を与えてくれます。フォーレの『レクイエム』と並んで「安らぎのレクイエム」と呼ぶにふさわしいこの作品は、現代の合唱レパートリーの中で特に大切にされている存在なのです。