東京という街の特徴は、緑が多いこと。たとえば皇居から明治神宮まで、樹木のあるエリアが続いています。この他にも後楽園とか清澄庭園とか、静かな場所が多いのが特徴です。海外からやってくる外国人観光客は新宿とか渋谷とか銀座とかではよく見かけますが、こういう静けさが特徴の場所ではあまり見かけません(明治神宮のあたりはさすがに違うと思いますが)。

私はある時、「静かな場所に行きたい」と思い、上野公園のとなりにある旧岩崎邸庭園に出かけました。予想通りとても静かです。訪れたのは祝日でしたが、にもかかわらずやたらとスカスカ。これはありがたい。

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そもそもチケットを購入(たったの400円)してから緩やかな坂道を登って旧岩崎邸に近づきますが、そこからしてほとんど誰も歩いておらず、静かです。なんなら上野公園から道一本隔てただけでこんな静かなエリアがあったなんて、と思うほど周辺も静かです。すごいや。

靴を脱いで洋館に足を踏み入れると、英国人建築家ジョサイア・コンドルによる設計の精巧さに圧倒されました。木の温もりを感じさせる内装や細部に施された装飾は、西洋建築の華やかさを持ちながらも、日本的な美意識とも不思議と調和しており、当時の岩崎家の豊かさと洗練された趣味を如実に示していました。


特に印象的だったのは、広々とした洋館の応接室や大食堂です。天井の高さや壁紙の模様、そして窓から差し込む光が部屋全体を優雅に演出しており、ここで実際に人々が集い、会話や宴が繰り広げられていたのだと思うと、歴史の重みを感じました。解説を読んでみると、どうやら普段はスリッパを使っていたようなのですが、外国人を招いて催しを開催するときは土足だったようです。


和館へと足を運ぶと、雰囲気が一変します。畳敷きの落ち着いた空間は、日本建築ならではの簡素さと美しさを湛えており、洋館との対比が際立っていました。岩崎家が西洋文化を取り入れつつ、日本の伝統も大切にしていたことが伝わってきます。


また、庭園を散策すると、建物を引き立てる自然の配置が巧みに計算されていることに気づきました。芝生や樹木が整えられている一方で、人工的な作り込みを強く感じさせない柔らかさがあり、来訪者に安らぎを与えます。庭を歩きながら洋館の外観を眺めると、堂々とした姿でありながらも周囲の緑に溶け込み、穏やかに時を重ねてきた様子が伝わってきました。


旧岩崎邸庭園は、単なる歴史的建築物ではなく、日本が近代化の過程で西洋文化をどのように取り入れ、自らの生活に融合させていったかを体感できる貴重な場だと感じます。華やかさと静謐さが同居する空間に身を置いていると、自分自身も明治の空気を少しだけ味わえたようで、とても心に残るひとときでした。建物と庭園が一体となった景観は、文化財としての価値にとどまらず、訪れる人に歴史と美の両方を実感させる力を持っていると思います。


年に一度くらいはここを訪問して、季節を変えて庭園の表情の違いを楽しんでみたいと感じました。旧岩崎邸庭園は、何度でも足を運びたくなる魅力を備えた場所だと思います。思えば、ここに前回来たのは10年以上昔のこと(だったと思う)。次に来たとき自分は何歳になっているのか想像してちょっと怖くなりました。