2025年9月20日(土)~2025年12月14日(日)までSOMPO美術館で開催中のモーリス・ユトリロ展。モーリス・ユトリロ(1883~1955)はフランスの画家で、モンマルトルの街並みを多く描いたことで知られます。アルコール依存や精神疾患に苦しみつつ、独特の静謐な風景画を残しました。あまり深く考えたことはなかったのですが戦後まで生きた人でした。

モンマルトルつまりパリの景色を描いているということで白い作品を多く残している人というイメージを持っていました。しかしこの展覧会に足を運んでみると「色彩の時代」という創作時期もあり、必ずしも白ばかりではないということがわかりました。

第1章「モンマニー時代」では、1906年から1908年頃に描かれた屋根や通り、教会の風景が並びます。モンマニーという土地に漂う静けさや、モンマルトルやサン=ドニの運河沿いの素朴な情景が淡い色彩の中で描かれており、建物の密度感や影の深さが画面全体に奥行きを与えていました。まだ色彩は控えめですが、その分、空気の層が丁寧に描き込まれているように感じられました。

次の「白の時代」では、壁や建物の表面が白を基調とした色調で表現され、光と影が鋭敏に描かれていました。特に教会などの建物を題材にした作品では、淡い白が重なり合うことで、曖昧でありながら独特の存在感を放つ風景が広がっていました。ここで注目すべきは、ユトリロが「ラパン・アジル」という酒場(?)の外観を何度も繰り返し描いている点です。モンマルトルを象徴する場所として、彼にとって特別な意味を持ち、また繰り返し描くことで街の象徴性を深めていったのだろうと想像しました。

最後の「色彩の時代」では、色使いが一気に豊かになり、表現の幅が大きく広がります。雪景色や教会の屋根、夜の街角やカフェなどが多彩な色彩で描かれ、視覚的な広がりとともに感情の深みが感じられました。「雪のサン=リュスティック通り、モンマルトル」や「雪のヴェジネ、聖ポリーヌ教会」などの作品では、冷えた空気の透明感とともに、色彩の温もりもさりげなく伝わってきました。

全体を通じて感じたのは、ユトリロが日常の風景を通して光や影、時間の流れを非常に繊細に表現していたということです。通りの角や古い教会の扉口、屋根の輪郭といった細部が、観る者を立ち止まらせ、そこに息づく街の時間を想像させてくれました。特にラパン・アジルの繰り返しの描写は、単なる酒場の外観以上に、ユトリロにとって「街の象徴」としての意味合いを帯びていたように思われます。

美術館を後にして新宿駅方面へ向って歩くと、ユトリロの描いたパリの通りや教会の輪郭が改めて思い起こされてきました(パリとあまりに違う光景だったので、逆に思い出してしまったのです)。展覧会は、過去の風景を紹介するだけではなく・・・、正直、またパリに行きたくなりました。行ったら行ったで「落書きだらけでいやん」となるのは目に見えていますが。