シェイクスピアの四大悲劇の一つである『ハムレット』は、デンマーク王子が父を殺した叔父に復讐するかどうかで苦悩し続ける物語です。たぶん一度は読んだことがあるでしょう。"To be, or not to be. That is the question." このあまりにも有名な言葉が物語を象徴しています。するのかしないのかはっきりしない。世の中、そういう人はたくさんいます。普通の人ならいいのですが、リーダー層の人がそんなタイプだと困ります。この「決断できないリーダーの悲劇」は、現代のビジネスにもそのまま当てはまると考えることができます。組織や企業に置き換えてみると、物語の本質は意思決定の遅れや内部抗争がいかに組織を弱体化させるかという教訓に見えてきます。

ハムレットは「やるべきか、やらざるべきか」で悩み続け、なかなか行動を起こせません。そのため、状況はどんどん悪化し、結局は自らを含む多くの人々を巻き込みながら破滅へと進んでいきます。ビジネスの世界でも同様に、トップやマネジメント層が意思決定を先延ばしにすると、市場のチャンスを逃すばかりか、現場の不安を増大させ、組織全体の士気を低下させることにつながります。決断できないリーダーは、結果的に組織を滅ぼす可能性を秘めているのです。

また、ハムレットは父の死の真相を知ろうとして、亡霊や芝居や独白を通じて情報を集め続けます。けれども、情報を増やせば増やすほど、かえって決断が鈍ってしまいます。現代の企業においても、データ分析やリサーチに時間をかけすぎて、結局「決められないまま時間が過ぎる」ということが少なくありません。もちろん情報は重要ですが、完璧な状況が整うことは決してありません。ある程度の不確実性を受け入れ、動きながら修正する柔軟さこそ、現代のリーダーに必要とされているものです。言い換えると、失敗を避けようとする姿勢をキープし続けることが一番のリスクだったりするわけですね。

さらに、ハムレットの行動の原動力は「復讐」でした。これは彼を突き動かす力にはなったものの、健全な未来をつくるためのエネルギーにはなりませんでした。ビジネスでも同じで、誰かを見返してやりたい、上司に一矢報いたいといった感情は短期的なモチベーションにはなり得ますが、長期的には組織を疲弊させます。未来を描くポジティブなビジョンがなければ、人も組織も持続的に前進することはできません。

加えて、デンマーク王国が内部で混乱している間に、外からの侵略の危機が迫っていたという点も見逃せません。これは現代の企業にも通じます。派閥争いや部署間の対立にエネルギーを割いているうちに、競合他社が市場を奪っていくのです。内部問題に注力するあまり外部の脅威や機会を見落とすことは、取り返しのつかない損失につながります。そういう自動車メーカーがあった気がしますが、まあいいでしょう。

『ハムレット』を現代ビジネスの視点で読み解くと、それは「決断できないリーダーが組織を滅ぼす物語」として浮かび上がります。情報を集めすぎて動けなくなること、復讐心や内部抗争に時間を費やすこと、外部への視野を欠くこと。これらはいずれも企業を衰退へと導く要因です。逆に言えば、この悲劇から学べるのは、不完全でも決断する勇気、未来に向けて動く姿勢、そして内部抗争より外部競争を優先する視点の大切さだと言えるでしょう(言うのと、実際にそのように行動するのは全く別の次元の話ですが)。ハムレットの迷いと破滅は、現代に生きる私たちにとっても深い教訓を与えているのではないでしょうか。