ベルト・モリゾ。ベルト、森ぞ。森さんがベルトを締めとるぞ。西日本出身の人ならついそういうしょうもない連想をしてしまいます。あまりにしょうもない・・・。

『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』。マネが描いたこの肖像画のモデルですと言えば、ああそうかなあの人かなとちょっと心当たりがある人もいるかもしれません。

Edouard_Manet

彼女は印象派の中心的メンバーでありながら、同時代の男性画家に比べて名が知られていないかもしれません。しかしその作品をじっくり眺めると、彼女がいかに新しい感性で日常生活を描き出したかが伝わってきます。モリゾは1841年にフランスのブールジュに生まれ、比較的裕福な家庭で育ちました。女性が画家を職業とすることが珍しい時代に、家族の理解を得ながら画業を志すことができたのは幸運なことでした。幼いころから美術教育を受け、やがてコローなどの影響を受けつつ腕を磨きました。そして印象派の仲間たちと出会い、1860年代からグループ展に参加していきます。

印象派の仲間たちと出会ったというあたり、友だちいない私にしてみればようやるわいとつい思ってしまいます。それはともあれ、彼女の特徴は、家庭や女性の生活を主題にした作品が多いことです。印象派の画家たちは戸外に出て光の移ろいを描くことを好みましたが、モリゾは身近な人びと、とくに女性や子どもに目を向け、室内の柔らかな光や親密な空気感を画面に定着させました。彼女が描いた母と子の姿、ベランダで佇む女性の姿などは、単なる肖像にとどまらず、時代の女性たちがどのように暮らし、どのように感情を抱いていたのかを私たちに伝えてくれます。印象派の技法である軽やかな筆致や明るい色彩はそのままに、主題の選び方に彼女ならではの視点がありました。というか、女性の社会進出には極めて厳しい制限が課せられていた当時にあっては、そういう路線を進まざるを得なかったというほうがむしろ当たっているかもしれませんね。

彼女の絵を見ると、技術の高さはもちろんのこと、身近な瞬間を愛おしく切り取ろうとする温かさが伝わってきます。家族や友人を描いた作品には、画家としての視点と女性としての共感が自然に溶け合っています。華やかな歴史画や大規模な風景画とは異なり、静かで親密な場面にこそ価値を見出した点が、彼女の独自性です。こうした表現は当時の批評家には過小評価されることもありましたが、今ではモリゾの作品は印象派を代表する重要な一部と考えられています。

ベルト・モリゾは1895年に54歳で亡くなりましたが、その短い生涯の中で印象派運動に欠かせない役割を果たしました。彼女が描いた作品は、光の表現や筆のリズムといった印象派の要素を保ちながら、同時に家庭の温もりや女性の感情に寄り添っています。もし美術館で彼女の絵に出会う機会があれば、ただ美しいだけでなく、当時の女性画家が自らの視点を持ち、表現者として立ち向かった証であることを感じ取っていただきたいと思います。ベルト・モリゾは、印象派の「影の存在」ではなく、自らの光を放つ画家であり、彼女の作品は今も新鮮な輝きを失っていないのです。

ちなみに上野の国立西洋美術館にも常設展に「黒いドレスの女性(観劇の前)」という作品が展示されています。他にも八王子の東京富士美術館などがありますが、要するに首都圏でなければ見ることが難しいということでしょう。ちょっと残念です。