18世紀イギリスを代表する肖像画家、サー・ジョシュア・レイノルズは、生涯におよそ30枚もの自画像を描き残しました。これほど多くの自らの姿を絵にしたと聞くと、つい「自己愛の強い人だったのではないか」と思ってしまうかもしれません。私はてっきりそういうもんだと思っていました。でもそうじゃなかったみたいです。そこには、彼が深く敬愛し、画家としての理想像とみなしていた巨匠レンブラントへの憧れと探求の姿勢がありました(知らなかった)。

レンブラント(1606–1669)は、オランダ黄金時代を代表する画家であり、光と影を駆使した劇的な表現で知られています。彼はまた、生涯を通じて数多くの自画像を描いた画家としても有名です。レンブラントの自画像は単なる顔の写しではなく、年齢を重ねるごとに内面の変化や人生の機微を映し出し、自己省察の記録としても高く評価されています。画家が自分自身を題材にすることは、モデルを雇う必要がなく、時間の制約も少ないという実利的な面もありますが、レンブラントの場合はとりわけ、自らの顔を通して光の当て方や感情表現の実験を重ねた点が重要でした。というわけでオランダに旅行して美術館に行くと大抵レンブラントの作品に出くわします。そして自画像がやたらと多いことに気づくはずです。自撮り男?

レイノルズは若い頃からレンブラントの作品に触れ、その独特な陰影表現と人間描写の深さに強く惹かれました。18世紀のイギリスでは、レンブラントはすでに巨匠として尊敬されており、美術を学ぶ者にとって彼の作品研究は欠かせないものでした。レイノルズもまたその一人であり、自画像を繰り返し描くことで、レンブラントが追い求めた画面構成や色彩の深み、光と影の劇的効果を自らの筆で再現しようと試みたのです。

加えて、自画像は画家にとって技術的な訓練の場であり、自らの芸術観を示す舞台でもありました。モデルを選ぶ自由がある中で、あえて自分自身を描くという行為は、画家としての覚悟や探究心の現れともいえます。レイノルズにとって、自画像は自らの顔を借りたレンブラント研究の実験台であり、同時に自分の芸術的成熟度を測る指標でもあったでしょう。

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30枚という数は、肖像画家として多忙を極めた彼の制作活動の中でも特筆すべきものです。おそらくですが、毎年1枚くらいは自画像を制作していたのではないでしょうか。そこには一貫して、単なる自己表現以上の目的が潜んでいました。それは、敬愛する先人に学び、その域に近づこうとする終わりなき努力です。レンブラントが自らの人生を通して深めた「人間を描く」という芸術の本質に、レイノルズもまた自分なりの答えを見つけようとしていたのです。

今日、レイノルズの自画像を眺めると、そこには彼自身の変化だけでなく、これはレンブラントから受け継ごうとしたのかな、とおぼしき光の使い方や構図の工夫が随所に見て取れます。それらは単に過去の巨匠を模倣するのではなく、18世紀という自らの時代に合った形で再解釈された成果でした。30枚の自画像は、その探究の軌跡であり、師と仰ぐ画家への静かなオマージュでもあります。