アムステルダムの一角にあるレンブラントの家。レンブラントといえば知らない人はいないでしょう。大作「夜警」を始めとする数々の名品を残しており巨匠の名に恥じるところがありません。


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私もこの家を訪問しました。前回アムステルダムを訪れたのは2003年とかなり昔だったのと、記憶が残っていないので当時はこれがまだ開館していなかったか、あるいは時間が足りなくて訪問しなかったのでしょう。

この建物は、レンブラントが1639年から1658年まで住んでいた家を基にしています。破産後に手放すまでの約20年間、ここで生活し、制作を行い、弟子を育て、注文を受けていたのです。現在のミュージアムは、その家の間取り、家具、装飾、そして生活様式をできる限り当時のままに再現しています。音声解説などを通じて、まるで17世紀にタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができました。(というか、館内には解説文などはいっさいありません。しかし音声解説は日本語版もあるので、これを借りることがこの建物を理解するための必須条件となります。)

まず驚いたのは、レンブラントのアトリエの様子です。天井からは絵画用の大きな北向きの窓が光を取り入れ、壁にはさまざまな画材が掛けられていました。絵の具の原料となる鉱物や貝殻、ガラスのビンに入った顔料の粉、筆、パレット、キャンバス……。どれも現代の画材屋で見かけるものとは全く異なり、職人としてのレンブラントの姿を強く感じさせました。絵の具は市販されていたわけではなく、画家が自ら粉から練って作っていたのです。その作業台も再現されていて、レンブラントが顔料を混ぜ、油と練っていたであろう様子がありありと浮かんできます。この北向きの窓というのがポイントで、窓が北だと一日を通して差し込んでくる日の光が一定のため、絵を描きやすかったようなのです。

また、家の中にはレンブラントのコレクションも展示されています。というのも、彼は画家であると同時に収集家でもあり、世界各地の珍しいオブジェや剥製、彫刻などを集めていたそうです。それらが陳列された部屋も再現されていて、「好奇心の塊だったのだな」と感心しました。解剖学の本やエッチング版画などもあり、彼の知的探求心がうかがえます。

私が最も心を打たれたのは、生活空間の再現です。寝室やダイニング、台所まで細かく復元されており、彼がこの空間で実際に日々の暮らしを営んでいたのだというリアリティがありました。とりわけ寝室はとても小さく、現代の感覚で言えば「押入れの中にベッドを詰め込んだ」ようなサイズ感です。しかし当時の人々にとってはそれが普通であり、レンブラントもこの小さな空間で休息をとっていたのだと知ると、何とも人間味を感じました。当時は体を曲げて寝ないと早く死ぬとかいったような迷信があったようなのです。いったいどんな信仰だ・・・。

もちろん、彼の代表的なエッチング作品も多く展示されています。油絵の作品は美術館などに散らばっていますが、ここでは版画を通してレンブラントの筆致や構成力をじっくりと観察できます。展示の仕方も過剰に近代的な演出を避けており、あくまで彼の「住まい兼アトリエ」という雰囲気を大切にしているところが好印象でした。また、弟子を教える部屋というのも復元されていて、しっかりと弟子からカネを取っていた様子が伝わってきます。なんだか世知辛い話ですが。

観光地というよりは、レンブラントという一人の人間の人生の時間と空間をそのまま味わえる場所だ、そんなふうに感じました。建物自体が語りかけてくるような、そんなミュージアムはそう多くはありません。アムステルダムの中心部からもアクセスが良く、美術好きの方にはもちろん、歴史や暮らしに興味がある方にもおすすめしたい場所です。

レンブラントの作品を知っている人も、知らない人も、この家に入った瞬間から彼の時代に引き込まれるはずです。訪問後、作品を改めて見るとき、そこに描かれた人物たちが、より生き生きと感じられるようになるでしょう。それこそがこのミュージアムの最大の魅力だと感じました。

それとレンブラント自身と息子の関係性にはちょっと泣けてきました。人付き合いが苦手だったレンブラントが愛したのが息子ティトゥス。息子もその父の性格を知って、絵画の製作を手伝っていたようなのです。成人するまで生きたレンブラントの子はティトゥスだけで、そのティトゥスも26歳で亡くなっています。なんとも・・・。