ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ。その名を聞いて誰もが思い浮かべるのが、世界で最も有名な絵画のひとつ『モナリザ』ではないでしょうか。微笑みを浮かべた女性の肖像画は、その神秘性や技術の高さで数世紀にわたり人々を魅了してきました。しかし、この名画が、実は完成作品として描かれたわけではないという事実をご存じでしょうか。ルーブル美術館で見るとすごくクオリティが高くて驚きますが・・・、いや、実際は人だかりがすごくて何の感動もないのが実情です。行くとがっかりするのはマーライオンとか小便小僧とか色々言われていますが、『モナリザ』も結構がっかりしますし、あまりそこに長居するとスリに狙われたりするんですよね・・・。

それはともあれダ・ヴィンチは『モナリザ』を1503年頃に描き始めたとされています。モデルはフィレンツェの商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、リザ・ゲラルディーニとされ、その名も「ジョコンド夫人の肖像」すなわち「ラ・ジョコンダ」として知られています。

しかし、ダ・ヴィンチはこの肖像画を依頼主に渡すことなく、生涯手元に置き続けました。そして亡くなる1519年までの十数年にわたり、筆を入れ続けていたと考えられています。

その理由については諸説あります。ひとつには、彼の完璧主義が挙げられます。ダ・ヴィンチは科学、解剖学、光学などあらゆる分野に精通しており、それらの知識を芸術表現に反映させることに強い執念を持っていました。彼にとって芸術作品とは、ただ美しさを描くだけでなく、自然の真理を再現する手段だったのです。

『モナリザ』に見られる独特のぼかし技法「スフマート」は、その執念の一端を物語っています。顔の輪郭や衣服の線がぼやけて見えるのは、光と空気の効果をリアルに表現しようとしたからだといわれています。こうした効果を完璧に仕上げるため、何層にも重ねて描き直す必要があったのです。

また、彼が絵を完成とみなさなかったのは、芸術そのものへの哲学的な考えによるともいわれています。ダ・ヴィンチにとって、自然界の真理を追い求める旅に終わりはなく、絵画もまたその「過程」でしかなかったのかもしれません。完成とは、外部が決めるものではなく、内的な探究の歩みの途中にある――そんな思想が彼の制作態度に現れていたのでしょう。

事実、『モナリザ』の細部には未完成と解釈できる部分も多く存在します。たとえば、背景の左右の地形が不自然にずれていたり、手の描写が他の部分に比べて控えめであったりするのです。それでも、絵は不完全であるがゆえに、逆に無限の解釈を呼び込み、時代を超えて人々を魅了し続けています。

ダ・ヴィンチは亡命先のフランス・アンボワーズで最期を迎えましたが、その時『モナリザ』は彼の手元にありました。現在この絵がルーヴル美術館に所蔵されているのは、彼の死後、フランス王フランソワ1世が遺品として購入したためです。

『モナリザ』は、完成された作品というよりも、ダ・ヴィンチという稀代の天才の「思考と実験の結晶」だったのかもしれません。そしてその探究心は、彼が絵筆を置くことなく生涯を終えたという事実に、何よりも強く表れているのです。生涯現役ってやつでしょうかね・・・。