2025年6月8日(日)、清瀬けやきホールにて開催された「川久保賜紀・中野翔太デュオ・リサイタル」は、アメリカの作曲家たちに焦点を当てた魅力あふれるコンサートでした。プログラム全体に明確なコンセプトがあり、選曲、演奏、語り、すべてが有機的に結びついていて、聴く者を自然とその世界に引き込んでいくような一夜でした。

冒頭はジョージ・ガーシュウィンの「3つの前奏曲」。ジャズのエッセンスとクラシックの技巧が融合したこの名曲を、デュオで聴ける機会は意外と少ないだけに、非常に貴重な体験でした。特に第1曲の軽快なリズムと、どこか哀愁を帯びたメロディの対比が印象的で、早くも会場の空気が温まっていくのを感じました。

続いて披露されたのは、ガーシュウィンが作曲技法の指導を仰ごうとしたという逸話でも知られるラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」より第2楽章「ブルース」。フランス印象主義の静謐な質感と、アメリカのジャズが見事に融合したこの楽章は、川久保さんのヴァイオリンによって、そのクールでどこか都会的な空気が実に見事に描き出されていました。中野さんのピアノとの対話も素晴らしく、まさに“呼吸の合った”デュオであることを再確認させられました。

次に登場したのはジョン・ウィリアムズの映画音楽。映画『シンドラーのリスト』のテーマでは、静かに語りかけるようなヴァイオリンの旋律が会場を包み込み、聴衆の心に深く染みわたっていきました。続く『イーストウィックの魔女たち』より「悪魔のダンス」では一転、技巧的でダイナミックな演奏が展開され、そのコントラストに息を呑みました。川久保さんが演奏前に語っていた「E.T.」や「インディ・ジョーンズ」の話も印象的でした。世代的にも近く、私自身も『最後の聖戦』を何度も見た記憶が甦り、懐かしさと共に少年時代の感覚が一瞬だけ戻ってきたような気がしました。

プログラム後半ではまず、ヘンリー・マンシーニ作曲の「ムーン・リバー」(中野翔太さん編曲)が演奏されました。映画『ティファニーで朝食を』の名テーマとして知られるこの曲を、ヴァイオリンとピアノによるデュオで聴くのは初めてでした。しかも、演奏後のトークによれば、ヴァイオリンの譜面にはコードしか書かれておらず、即興的な要素を含む演奏だったとのこと。それにもかかわらず、音楽は非常に整っており、優雅さと芯の強さを併せ持つ川久保さんの音色はまさに一流。録音してCD化してほしいと思うほどの完成度でした。

続いて坂本龍一さんの作品「Undercooled」「イリヤのための曲」が披露されました。演奏前には9.11テロの話題にも触れられ、時の流れをしみじみと感じさせられました。あの事件からもうすぐ25年近くになるのかと思うと、時代の重みと、音楽が記憶を呼び起こす力の大きさを改めて実感しました。

リー・ハーライン作曲「星に願いを」(これも中野さんの編曲)は、誰もが一度は耳にしたことがある名曲。ヴァイオリンとピアノというシンプルな編成だからこそ、メロディの純粋さと美しさが際立ちました。

そして最後を飾ったのは、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。通常はオーケストラとの共演で聴く機会が多いこの作品ですが、ヴァイオリンとピアノの編成で演奏されることは非常に珍しいとのこと。華やかでスウィング感のある部分と、内省的なメロディが交錯するこの作品を、この編成で耳にできたのは本当に特別な体験であり、おそらく最初で最後かもしれません。圧巻のクライマックスには、会場全体が一体となったような感動がありました。

アンコールでは、やはりクライスラー。選ばれた曲は「シンコペーション」。軽妙でありながらも高い技巧が求められるこの作品を、息の合った二人が見事にまとめ上げ、華やかで温かい余韻を残してくれました。

終演後、余韻に浸りながら帰路につきました。
再びこのようなコンセプトのもとに、お二人のデュオが聴ける日を心から願っています。