引っ越しするとなると当然物件探しを始めます。これが終わらないと次に進めません。というわけで誰もがネットで条件を指定して検索します。結果、良さそうな物件を見つけて「空室 入居可」。ラッキー!! そう思って不動産屋に問い合わせると「もう決まりました」。おいおい、空室って言ってたじゃん。この嘘つき。

そう、これが世にいうおとり物件です。

ではなぜ、こんなおとり物件がネット上に存在するのでしょうか?

理由は簡単で、「問い合わせを増やすため」です。人は誰でも、条件の良いものには惹かれます。「駅から5分」「築浅」「家賃も手頃」――そんな夢のような物件が表示されていれば、つい問い合わせたくなるのが人情。だからこそ、実際にはもう空いていない(むしろ最初から存在しない)物件を、あえて掲載し続けるのです。

そして問い合わせが来ると、「その物件はちょうど今決まってしまいまして……」と、あたかもタイミングの問題だったかのように説明されます。「でも、似たような条件の物件がございますので、ぜひ一度店舗にお越しください」と続けるのが定番の流れ。

ここで「まぁ、せっかくだし他のも見てみるか」と思ってしまうと、不動産屋の思うツボ。来店してもらえれば、いくらでも他の物件を紹介できますし、営業トークで押せば契約まで持ち込むチャンスも生まれます。つまり、おとり物件は、客を「釣る」ためのエサなのです。

もちろん、すべての不動産屋がそういうことをしているわけではありません。真面目に営業しているところも多いです。でも残念ながら、おとり物件を使った集客をしている業者も一定数存在します。特にネット掲載中心の仲介会社や、仲介手数料で稼ぐビジネスモデルの会社は要注意です。

では、私たち消費者はどうやってこの“罠”を回避すればいいのでしょうか?

まず、明らかに条件が良すぎる物件には警戒しましょう。相場よりかなり安かったり、人気エリアで築年数が新しいのに家賃が安すぎたりする場合、裏があると疑っていいです。おとり物件の多くは、「そんなうまい話あるわけない」と思える内容です。

次に、同じ物件情報が複数のサイトに載っているかを確認するのも手です。1社だけが取り扱っているような場合、その情報の信ぴょう性はやや低いです。逆に、大手ポータルサイトなどで複数の業者が同じ物件を掲載している場合は、実在している可能性が高いです。

さらに、気になる物件が見つかったら、まずは「この物件、今も内見できますか?」と明確に尋ねましょう。「来店してからでないと確認できない」という場合も注意です。できれば、メールではなく電話でリアルタイムに確認すると、相手の反応から信頼性を見極めやすくなります。

そして一番大事なのは、「断る勇気」です。不動産屋に出向いたあと、「本命はないけど、これならまぁ……」と妥協して契約してしまうと、結果的に後悔することになりかねません。引っ越しは大きなイベントですし、住まいは生活の基盤。焦らず、納得できる物件を見つけるまで粘るべきです。

最後に、悪質なおとり物件に遭遇したら、消費者センターや宅建協会に相談するのも選択肢のひとつです。業者に対する指導や改善要請が入ることもあります。声を上げることが、業界全体の健全化につながるのです。

便利なはずのネット検索が、逆に落とし穴になるのは本末転倒。でも、正しい知識とちょっとした注意で、その罠は回避できます。

住まい探しは、慎重に。そして冷静に。

あなたの新生活が、気持ちよくスタートできますように。


(最後のセンテンスは、「冷静に、丁寧に、正確に。みんなの夢が叶いますように」というAKBのチームBの掛け声のパクリです。)