マリー・ローランサンは日本でもそこそこ人気が高く、どこかの美術館で一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。たとえばこういう画風の作品を多く残しています。

これはオランジュリー美術館にある「ココ・マドモワゼル・シャネルの肖像」という作品です。この画風、見覚えありませんか？ なんだかいかにも軽井沢の別荘にありそうな雰囲気・・・。

マリー・ローランサンは、20世紀初頭のフランスで活躍した女性画家です。彼女の作品は、やわらかく詩的な雰囲気と、淡く優しい色使いが特徴で、多くの人々を魅了してきました。ローランサンの描く世界は、現実とは少し違う夢の中のような空気をまとっており、観る人の心にそっと寄り添います。

1883年にパリで生まれたローランサンは、若い頃から芸術に関心を持ち、セーヴル陶磁器学校で絵付けを学びました。その後、本格的に画家を目指してアカデミー・アンベールに入学し、そこでキュビスムの画家たちと出会います。特に詩人ギヨーム・アポリネールとの恋愛関係は、彼女の創作に深く影響を与えました。

初期の作品には、キュビスムの影響が見られますが、次第に彼女独自のスタイルを確立していきます。ローランサンの絵画には、女性や少女たちが淡いピンクや青、灰色といったパステルカラーで描かれ、背景には花や木々が柔らかく表現されています。直線や陰影を極力排除したその表現は、力強さというよりも、繊細さや静けさを感じさせます。
代表作には「若い女たち」や「音楽会」などがあり、いずれも幻想的でありながら、見る者に不思議な安心感を与えてくれます。

彼女の人物画に共通するのは、どこか遠くを見つめるような女性たちの表情です。感情を押し出すのではなく、内面の静けさや余韻を感じさせるような佇まいは、まさにローランサンならではといえるでしょう。

ローランサンはまた、舞台美術や肖像画の分野でも活躍しました。特にココ・シャネルなど、当時の文化人たちと交流を持ち、彼女たちをモデルにした作品も数多く残しています。肖像画においても、ローランサンは対象の本質を優しくすくい取るように描き出し、観る者の想像力をかき立てます。

現代においても、ローランサンの作品は多くの人に愛され続けています。その理由のひとつは、時代や国境を超えて「やさしさ」や「夢」といった普遍的な感情を呼び起こしてくれるからかもしれません。日々の喧騒に疲れたとき、ふと彼女の絵に触れると、心がふわっとほどけていくような感覚になります。

マリー・ローランサンの絵画は、ただ美しいだけではなく、私たちの心の奥にある繊細な部分に語りかけてきます。肝心の「日本だとどこで見られるの？」ですが、たとえば都内からだとちょっと遠いですが、八王子のかなり奥まったところにある東京富士美術館が「二人の女」という作品を持っています。ただ、展示替えとか貸出中でいつも見られるというわけではなさそうなので、ちょっと注意が必要そうですね。