ロンドンを訪れたとき、もし時間に余裕があればウォレス・コレクションを訪れるとよいでしょう。大英博物館やナショナル・ギャラリーほどの知名度こそないものの、良質なコレクションで知られており、足を運んで後悔はないはずです。

そのコレクションの一つがフラゴナールの「ぶらんこ」。有名な作品なので一度は実物でなくても目にしたことがあるでしょう。

これは18世紀フランス・ロココ美術を象徴する絵画として知られています。ふわりと宙に浮かぶブランコ、風に舞うドレス、木漏れ日のように差し込む光。それらがひとつになって、観る者に夢のような世界を感じさせてくれます。この作品が持つ明るい雰囲気にはさまざまな要素が関わっていますが、まず、この作品を目にしたとき、多くの人が真っ先に視線を向けるのが、中央の女性でしょう。

彼女は優雅にブランコに乗り、ふわりと浮かび上がるドレスをまとっています。このドレスの色が、鮮やかで甘美なピンク色ですね（見れば分かるか）。まるでバラの花びらのように繊細で、柔らかく、絵全体に幸福感をもたらしています。

ピンクという色は一般的に、優しさ、愛情、若々しさ、そして無垢さを象徴する色とされています。ロココ時代には、このような柔らかく女性的な色合いが特に好まれました。なぜピンクが流行ったのか？　サンリオのマイメロディみたいなキャラクターが大流行したのか・・・、は謎ですがともあれ「ぶらんこ」におけるピンクのドレスは、ただ美しいだけでなく、この時代の感性や価値観を見事に切り取って表現していると思います。

さらに注目したいのは、ピンク色がこの絵において視覚的な中心として機能している点です。周囲は深い緑に包まれた森で構成され、背景には柔らかな光が差し込みます。そこに浮かぶように配されたピンクのドレスは、まるで舞台のスポットライトのように観る者の目を引きつけるではありませんか。この鮮やかな対比によって、作品全体が生き生きとした動きと明るさを帯びているのです。

また、ピンクのドレスが描かれている女性のポーズや表情も、絵に軽やかさを加えています。彼女はまるでブランコの浮遊感を楽しんでいるかのように足を伸ばし、靴を放り投げています。これは当時の上流階級の恋愛遊戯を描いたもので、暗い主題とは対照的な明るく快楽的な世界観を象徴しています。ピンク色はこのような愛らしさ、官能性、そして甘美な空気を強調する手段として非常に効果的に使われているのです。

一説によると、右側でぶらんこを動かしているのがこの女性の夫。そして左側で半身を倒して女性を仰ぎ見ているのは・・・、まあ書かなくても想像はつきますね。

さらに、絵画の中ではピンク色がドレスだけでなく、彼女の頬の赤らみや唇、花々の一部にも使用されています。これにより、作品全体に統一感と調和が生まれ、明るく優雅な印象が一層強まっています。まさにピンク色が「ぶらんこ」の空気感を作り出す鍵となっているといえるでしょう。

もちろん、「ぶらんこ」が明るく感じられるのは、色使いだけではありません。柔らかい光と影の表現、優雅な構図、動きのある筆致など、フラゴナールの卓越した技術があってこそ成り立っています。日本でもフラゴナールの作品を収蔵している美術館はいくつかあるはずなので、ぜひご覧いただけたらと思います。

「ぶらんこ」は、作品のテーマがあまり褒められたものではありませんが、そういうのを含めて単なる装飾的な絵画ではなく、18世紀のフランス社会の価値観、美意識、そして人々の感情までも織り込んだ芸術作品です。その明るい世界を支える色としてのピンクに改めて注目することで、この絵の魅力がより一層深く味わえるのではないでしょうか。