ジャン=マルク・ナティエ(1685-1766)。って誰やねんというお話ですが、この人は画家でした。ルイ15世の治世下、ロココ美術が花開き、絵画にはしどけなく官能的な場面が好んで描かれるようになりました。ジャン=マルク・ナティエはその当時、宮廷の肖像画家として名を馳せた人物です。

国立西洋美術館にも「マリー=アンリエット・ベルトロ・ド・プレヌフ夫人の肖像」という作品が常設展示されています。

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この手の肖像画ですが、人物を忠実に再現しているわけではなくて芸術的に理想化して描くのが一般的でした。ナティエが得意としていたのは、その理想像というのをさらに寓意を込めて描くという方法で、この作品の場合は絵の左側の壺から水が流れ出ているので、そのつながりで青い布をまとっています。きっと泉のイメージと結びつけて描いたのでしょうね。

後にナティエが好んだこのような青は「ナティエブルー」と呼ばれるようになり、その名を今に伝えています。ナティエブルーとは、ジャン=マルク・ナティエが作品中で好んで用いた、ややくすみのある上品な青色のことを指します。この色は、単なる衣装の彩りではなく、しばしば寓意的な意味を込めて描かれていました。ナティエは、描く人物を現実そのままに再現するのではなく、神話や寓話の登場人物になぞらえて理想化し、その背景に物語性を持たせることで、鑑賞者に想像の余地を与える肖像画を得意としました。その際に用いられるナティエブルーは、人物に気品や静謐さを与えるとともに、象徴的な意味を添えるための重要な色彩として機能していました。

この青は、澄んでいながらも落ち着いたトーンをもち、ロココ時代特有の優雅で洗練された感性と非常に調和しています。とりわけ女性像では、清らかさや神秘性を強調する色として活用され、見る者の目を自然と引きつけました。ナティエが描いた衣装のひだや光沢にこの青が加わることで、絵画全体が幻想的で詩的な雰囲気に包まれるのです。

ナティエの没後、このナティエブルーは単なる一画家の好みの色という枠を超え、美術史の中で象徴的な存在となっていきます。特に19世紀から20世紀初頭にかけてのフランス美術では、ロココ再評価の流れの中で再び注目を集め、色彩や様式の研究対象となりました。また、現代においてもインテリアやファッション、テキスタイルの分野などで「ナティエブルー」の名を冠した製品が見られるようになり、クラシカルで上品なイメージを演出するための色として使われています。

このように、ナティエブルーは単なる絵画技法の一部ではなく、時代を超えて受け継がれてきた文化的な記号として、今なお多くの人々の心に美の象徴として残り続けています。

国立西洋美術館でナティエの絵画を初めて見たのはもう昔のこと。しかし今も(展示替えの波を乗り越えて)常設展でずっと私たちのことを待ってくれています。見ると本当に気品のある色合いで、何度見てもいい作品だと思わせてくれます。

参考文献