ヴァイオリンの練習曲のなかでも定番といえるのがクロイツェル。ロドルフ・クロイツェル(1766-1831)によって作られました。つまりは大雑把に言ってモーツァルトからベートーヴェンあたりまでの時代に生きた人です。パリ音楽院(の設立初期の教師の一人で、ヴァイオリン教育の体系を築く上で超重要な人物。ナポレオンにも仕えた宮廷音楽家でもあります。
一般的に「クロイツェル」と言われていますが正しくは「42の練習曲」で、ヴァイオリン中級〜上級者向けの教材で今日まで世界中のヴァイオリン教育で使われ続けている超定番です。テクニックを磨くための内容で、音楽性だけでなく基礎練習としても優秀。ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」(ヴァイオリン・ソナタ第9番)も、このロドルフ・クロイツェルに献呈されています。でもクロイツェル本人はこの曲を一度も演奏せず、あまり好きではなかったとも言われてるんですけどね・・・。
で、この「クロイツェル」ですが、音階、ポジション移動、ボウイング、重音、装飾音など、演奏に不可欠な技術がバランスよく盛り込まれており、技巧だけでなく音楽的表現力も養えます。今日でも多くのヴァイオリン学習者にとって通過儀礼とされる名教材です。曲ごとにいろいろ特徴があります。たとえば第1番なら運指とボウイングの基本を学びます。シンプルな音型を用いたスラーと分け弓の練習をします。基礎的な弓使いと安定した運指の導入が目的で、きちんと学習すれば音の粒がそろってきたり、音階の正確さ、右手と左手のタイミングの合致などが身につくとされています。
ただこれ、無伴奏なので一人で練習します。ピアニストはいりません。だからえてして黙々と一人で本当に何回も何回も繰り返して弾く、というスタイルになりがちです。
そうなると、罠にはまります。一体どんな罠か? それは、「調性にはまらない音を出しているが、自分は気づいていない」というやつです。最近の自分がまさにそれでした。
曲ごとにト短調だったりイ長調だったりと、調性が決まっており、そうなると音程が曖昧だと「ト短調にこの音は当てはまらないよな」という音を鳴らしてしまうことがあります。ピアニストがト短調とかイ長調とかの和音を都度都度出してくれれば、音程がずれたときにすぐに分かります。でも一人で弾いていると気づきません。クロイツェルはどの曲も出だしはわりと簡単なのですが、しばらくすると臨時記号がたくさん登場してややこしくなり、どうしても音程を取ることが難しくなります。繰り返しますが一人で弾いていると音程がずれたことに気づかないものなんですよ・・・。
ちなみに分散和音が登場するところもあります。これも分散しているとは言ってもやはり和音は和音。だから響きは和音として聴かせたいものです。「和声感覚が大事」と言うのは簡単なのですが、これもまた「和声感覚ってどうやって身につけるの? 早期教育を受けなかったらどうすればいいの?」ということに思い至り、そこで目の前が真っ暗になります。
以上、クロイツェルを練習するときに陥りがちな罠でした・・・。
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