エドゥアール・マネの代表的な肖像画の一つである「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」。1872年の作品であり、現在はオルセー美術館に展示されています。この作品では、モデルとなった女性、ベルト・モリゾが黒いドレスをまとい、すみれの花束を胸元に飾っています。
あれ、おかしいな。でもなんで黒いドレスなんでしょうか・・・? お葬式の帰り道なんでしょうか。正直、黒い服を着ていると夜道で発見しづらいので交通事故のもとです。迷惑です。いったいなぜ彼女は黒い服を着ているのでしょうか。
19世紀後半のフランスでは、黒いドレスは喪服としてだけでなく、洗練されたファッションとしても広く受け入れられていたようなのです。特に都会のいわゆるブルジョア階級に属する女性たちの間では、黒いドレスは格式と品位を象徴するものとされていました。ベルト・モリゾは裕福な家庭の出身であり、マネをはじめとする芸術家たちとも交流を深めていたため、当時のファッションの流行を意識していた可能性が高いです。
また、黒い服はシンプルでありながらも高級感を持ち、肖像画のモデルとしての存在感を際立たせる効果があります。思い出してみると、中世から続く肖像画のジャンルで、大司教とか王とかいう立場の人って黒い衣装をまとっていることが多かったですね。実際に、モリゾの黒いドレスは彼女の白い肌やすみれの花束との対比を強調し、観る者の視線を引きつける要素となっています。

ベルト・モリゾはマネの弟子であり、長年にわたる交流がありました。マネは彼女の芸術的才能を高く評価し、彼女の魅力を数多くの作品に描いています。しかし、モリゾは最終的にマネの弟、ウジェーヌ・マネと結婚しました。この出来事がマネにとってどのような意味を持っていたのかは定かではありませんが、彼の作品にはしばしば彼女への特別な思いが込められていると指摘されています。黒い服は、マネにとってモリゾが「手の届かない存在」となったことを象徴しているのかもしれません。
さらに、マネが黒を多用したのは、単なるファッションや象徴的な意味だけでなく、絵画技法の観点からも重要な要素でした。彼の作品には黒い衣装をまとった女性が頻繁に登場しますが、それは印象派の技法と結びついています(作風がワンパターンだった、というのとはちょっと違うと思います)。ちなみに、肝心のベルト・モリゾは白い色を気に入っていました。マネと正反対。反対方向のベクトルだったから互いに逆に惹かれ合っていたということなのでしょうか。
当時、印象派の画家たちは光と影の表現に革新をもたらそうとしていました。マネもその中のひとりとして、黒という色の中にさまざまなニュアンスを取り入れ、微妙な光の変化を表現することに挑戦していました。特に「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」では、よくよく見ると黒いドレスの中にさまざまな色彩の変化を込めようとしていたのだろうという苦労の痕らしくものを感じ取ることができ、黒が単なる「暗い色」ではなく、豊かな表現力を持つことを示しています。
また、黒い服を背景にすることで、モリゾの顔の表情やすみれの花束の色彩がより際立つ効果を生んでいます。すみれは愛や謙虚さを象徴する花とされ、ベルト・モリゾの気品と知性を引き立てる役割を果たしていると言えるでしょう。
パリにたどり着いた人は、おそらくオルセー美術館にも足を運ぶことでしょう。この作品の実物を鑑賞するとき、モリゾのまとう黒がどのような意味を持つのかを考えながら見ることで、マネが込めた意図や時代背景をより深く理解することができるはずです。・・・まあ、実際にパリに行ってみると時差ボケとか日々の観光の疲労の蓄積とかでまともなコンディションで絵画鑑賞なんて案外できなかったりすんるんですけどね・・・。個人的には入ったレストランにでかいネズミがいたのにはビビりました。
参考文献
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