上野公園一帯で開催される音楽祭「東京・春・音楽祭」も21年目を迎えました。長く続いたこのイベントもすっかり定着し、「ああ、またこの季節を迎えたのか」と思うことしきりです。
2025年3月20日(木・祝)には東京春祭チェンバーオーケストラのコンサートが開催されました。曲目は以下の通り。
モーツァルト:ディヴェルティメント ヘ長調 K.138
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《ミューズを率いるアポロ》
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《ミューズを率いるアポロ》
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
いずれも素晴らしい演奏となりました。
一曲目の「ディヴェルティメント ヘ長調 K.138」ではチェンバーオーケストラの中のさらに弦楽器奏者の一部による演奏。小集団ながらも厚みのあるアンサンブルが特徴的です。清冽なモーツァルトから始まり、次に続くものたちへの期待が高まります。
『ミューズを率いるアポロ』は、ウィキペディアによると
ストラヴィンスキーは、「パ・ダクシオン」「パ・ド・ドゥ」「ヴァリアシオン」といった、クラシック・バレエの伝統的な形式に厳格に従い、過剰な装飾を排した「白のバレエ」を目指した。このために、音楽は全音階的な技法が用いられ、楽器編成も弦楽合奏のみとされた。
果たしてその通り、全体的に「白」をイメージさせつつもどこか未来的なところのあるサウンドが特徴的です。といっても初演は1928年つまりおよそ100年前です。ということはストラヴィンスキーの「耳」は100年先を行っていたということなのでしょう。
この曲は実演に接する機会もなかなかありませんが、そうは言っても名曲であることは間違いないでしょう。弦楽合奏という形式で、しかもチェンバーオーケストラですから一人ひとりの責任は重くなります。この日の演奏者の顔ぶれは俊英ともいえる若手演奏家主体で、その実力は疑う必要はないでしょう。アンサンブルの機能性は抜群であり、むしろこういうきびきびとした動きこそ室内管弦楽団に期待するものです。この作品がバレエのための音楽であることを改めて思い出しました。
後半はモーツァルトの『交響曲第39番 変ホ長調 K.543』。こちらもプログラムの前半同様、純白を極めた演奏でした。これはもともとそういう色調の作品ですが、純度の高いアンサンブルで接してみると、やはりモーツァルトもまた素晴らしい耳を持っていたことが察せられ、いつまでもこの音の中に浸っていたいとすら思えます。
この日の演奏はすべて指揮者なしで、実質的には堀正文さんが多少の指示を出していた程度。しかし交響曲第39番においてもまた質の高いアンサンブルを示し、とくに第2楽章など気品のある響きが素晴らしかったですし、中間部の陰りの表現も見事です。終楽章における管楽器群の細やかな動きは、これまで何度もこの曲を聴いてきたはずなのに初めて耳にする音があり、このように書かれていたのか! と驚くことしきり。
演奏会を振り返ってみて、おそらくこのプログラム配置は「白」を意識した高度に練られたものだろうということが想像され、またそういう音を現実のものとして表出することができる高水準の奏者がそろっていることがひしひしと伝わってきました。素晴らしいひと時となりました。
コメント