2022年に引き続き2025年にも新国立劇場で上演されるバレエ『不思議の国のアリス』。もうあれから3年経過してしまったのか・・・。次回上演に向けて、一応見どころと特徴を整理しておきたいと思います。自分の鑑賞メモとしても記録を残しておくか・・・。

英国ロイヤル・バレエ団が2011年に初演したのがこの人気作品ですね。ルイス・キャロルの有名な原作をもとに、振付を手がけたのはクリストファー・ウィールドン。この作品は、視覚的な美しさと物語性を兼ね備えた、「とくに難しい知識はないが、それでも観れば楽しい」と感じられるバレエに仕上がっていると思います。

最大の魅力は、原作の物語をある程度アレンジしながらも、バレエならではの表現に巧みに落とし込んでいる点でしょう。アリスが白ウサギを追いかけ、ウサギの穴に落ちて不思議の国に迷い込む冒頭のシーンから、ハートの女王との対決、現実世界への帰還まで、物語がサクサク進行します。踊りだから停滞したらダメなんですね。わかります。アリスが出会う個性的なキャラクター(白ウサギ、マッドハッター、チェシャ猫、ハートの女王など)とのやり取りも細かく描かれているのもいいですね。というか個性的なキャラクターしかいません。どうなってんだこの世界は。そうか不思議の国か・・・。

舞台装置も見逃せないですね。たとえばプロジェクション・マッピングを駆使して、観客に「落ちていく」感覚を与える演出は見どころでしょう。プロジェクション・マッピングは劇団四季で使っているのを見たことがありますが、バレエでも使うことが禁じられているわけではありませんから、こういうのはジャンジャン使ったほうがいいでしょう。トランプ兵が隊列を組む場面では、カードが立体的に舞台に現れるような効果が施されています。隊列なわけですからバラバラだと困りますね。

音楽はイギリスらしいブラックユーモアというか皮肉なテイストが混じったもの。作曲家ジョビー・タルボットが手掛けています。キャラクターごとの描き分けも見事ですし、シーンの展開にあわせて、軽やかなワルツを出したりテンポの速い音楽を持ってきたりと、ストーリーを音楽単体でも見事に表現しています。

また、これはあくまでもバレエですから踊りにも注目すべきでしょう。ハートの女王の動きは、古典的なバレエのスタイルに誇張されたコミカルな要素が加わり、独特な存在感を放っています。彼女は物語の終盤に登場しますが、その場面は、「これってチャイコフスキーのアレだよね」とニヤリとなるはずです。観ればわかります。

そしてマッドハッターにはタップダンスを踊らせています。バレエでタップダンスとは珍しい! この軽快なリズムが、バレエの優雅な動きと絶妙にマッチしています。

以上のようにバレエ『不思議の国のアリス』は、原作の再現具合や、ダンサーの巧みな技術、視覚効果、イギリスらしいユーモアが見事に融合した作品です。特に、マッドハッターのタップダンスやハートの女王のコミカルな踊りは、バレエ初心者にも楽しめるポイントでしょう。幻想的な舞台美術や華やかな衣装、そしてテンポよく進むストーリー展開が、観客をアリスの冒険の世界に引き込みます。クラシックとコンテンポラリーの融合という新たな表現スタイルを確立した、現代バレエの傑作といえるでしょう。