今さらかと思うかもしれませんが、もう20年近く前に録音されたヒラリー・ハーンの「あげひばり」。同じCDにエルガーの『ヴァイオリン協奏曲』も録音されており、メインとしてはそちらになります。

しかし私がよく聴いているのはエルガーじゃなくてヴォーン・ウィリアムズの「あげひばり」です。エルガーは長すぎるのと、メンデルスゾーンとかベートーヴェンほど流れがよくなくて(失礼!)、いい曲ではあるものの「すごくいい」とまでは言えないと思います(もっと失礼)。

彼女の演奏の特徴は卓越したテクニック。その卓越した技術と深い音楽性で、世界中のクラシック音楽ファンを魅了してきました。いや圧倒したというべきでしょうか。

彼女の演奏は、音の一つ一つが生き生きとしており、まるで語りかけてくるかのような表現力を持っています。「あげひばり」においても、彼女のヴァイオリンは、鳥が大空へと羽ばたいていくかのように、しなやかで力強い旋律を紡ぎ出します。とりわけ、冒頭のヴァイオリン・ソロは、時間が止まったかのような静謐さと、心がふわりと浮かぶような解放感を同時に感じさせる名演です。

正直言うと、ヒラリー・ハーンの演奏は切れ味が鋭いというか、上手いことは上手いです。というかむちゃくちゃ上手いです。バッハの無伴奏なんて、これがデビューアルバムだったらもうこの先行くところないじゃん、と思うほど。

しかしその上手さが裏目に出るのか、モーツァルトはなぜか感動しませんでした。

が、不思議なことにこの「あげひばり」はよく仕上がっていると言わざるを得ません。まさに必聴の一枚です。ヒラリー・ハーンの繊細でありながら力強い表現、そしてオーケストラとの絶妙な調和が、聴くたびに新たな感動を与えてくれるでしょう。

さらに、ヒラリー・ハーンの演奏は、単なる技巧の巧みさにとどまらず、作品の持つ本質的な美しさを見事に引き出しています。彼女の音楽には、どこか語りかけるような温かさがあり、一音一音が心に染み渡るような感覚を覚えます(謎)。「あげひばり」のクライマックスでは、彼女の表現力が最高潮に達していることがわかるでしょう。もともと控えめな曲ですがそれが最高潮というと矛盾しているようですが、矛盾していないとでも言えばいいのか・・・。

なぜこんなにいい録音に仕上がったのか? いや録音だから何回も収録しなおして綺麗に聴こえるように編集してるんでしょと言えばそれまで。ただそれ以前の問題として彼女がやはり卓越した技巧の持ち主だからであって、その技術レベルがあるからこそ単純な「タリラリラーン」のようなメロディすら美しく響かせることができている、と言えばいいのでしょうか。

この手の作品はヒラリー・ハーンにいまいち向いてなさそうに見えるのですが、にもかかわらずすごくいい録音です。この録音が、現存する「あげひばり」のベストだとは言いませんが、最上級に属することは間違いないでしょう。いい意味で予想を裏切ってきました。人間はよく分かりませんね・・・。