『レ・ミゼラブル』に登場する、ずる賢いテナルディエ。一時は宿屋を経営し、ファンティーヌの娘コゼットを搾取かつ虐待していました。文章だからまだいいものの、映像でそれを見せられると流石に胸糞が悪くなります。世界名作劇場の『少女コゼット』は序盤がそういうシーンが多くて、これほんとに小さい子供に見せていいんかいとすら思います。
彼はワーテルローの戦いで戦死者の貴重品を漁るということまでやっていました。そこでマリユスの父ジョルジュ・ポンメルシーを戦場で「助けた」ということになっており、悪人なのに善人だということになっています。
その後テナルディエはどうなったのか? 原作を読み進めていくと、経営していた宿屋はつぶれ、犯罪に手を染めています。ガブローシュもアゼルマもエポニーヌもやはり父に従ってそういうことをしていましたが、ガブローシュとエポニーヌは物語の後半で命を落とします。
結局ゴルボー屋敷襲撃事件のあとにテナルディエの妻は逮捕され、審理中に死亡しています。共犯者たちも同様に捕まっていたのですが、免訴となったり脱獄しているのでこの裁判は中途半端な幕切れとなりました。
しかし主犯格だったテナルディエは欠席裁判のまま死刑が宣告されていることから、アゼルマとともに地下に潜伏生活を続けていました。そしてコゼットと結ばれたマリユスの前に再び姿を現し、ジャン・バルジャンの正体を明かそうとするもかえってマリユスの逆鱗に触れることに。しかし父の命の恩人だと思っていたマリユスは4500フランを与え、さらにニューヨークで換金可能な2万フランの手形を渡して追い払います。
そして原作にはこうあります。
要するにテナルディエは最初から最後までそういうキャラクターだったのです。人の性格は、環境や経験によって多少の変化はあるものの、本質的には変わらないものだということが、彼の言動から察せられます。この男のことは、ただちにけりをつけてしまおう。今語っている事件の二日後、彼はマリユスの世話で、偽名を使い、娘のアゼルマを連れて、ニューヨーク払いの二万フランの手形を携えて、アメリカに出発した。このできそこないのブルジョワのテナルディエの精神のみじめさは、救いがたいものだった。アメリカでも、ヨーロッパにいたときと同じだった。悪人が手を触れただけで、善行が腐敗し、そこから悪事が生れることが、ときどきある。マリユスの金で、テナルディエは黒人の奴隷商人になった。ユゴー作 佐藤朔訳『レ・ミゼラブル (五)』(新潮文庫)より
テナルディエは戦場で略奪を働いた時から、宿屋でコゼットを虐げた時も、犯罪に手を染めた時も、そして最後に奴隷商人になった時も、一貫して利己的で悪辣でした。どれほどの機会が与えられても、彼が善人になることはなかったのです。
マリユスから大金を得た時も、それを新しい人生のために使うのではなく、また別の悪事に転用してしまいました(とんでもないやつだ)。このように、人の本性というものは容易には変わらず、むしろ状況に応じてその性質を強めることさえあります。善人はどこまでも善人であり、悪人はどこまでも悪人である。テナルディエの生き様は、その冷厳な事実を示しているように思えてなりません。
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