ヨーロッパを旅することの楽しみのひとつは、その土地の美術館を訪れることです。ウィーン、パリ、ミュンヘン、ベルリン、ドレスデン、パリ、フィレンツェ、ローマ、ロンドン・・・。こうした都市を訪れると、ルーブル美術館とかナショナル・ギャラリーとかウフィツィ美術館とかを私は必ず覗くようにしています。いや、覗くというかむしろそれが目的と言っても過言ではありません。
そしてたまに見かけます。中世~近世くらいの絵画で、包帯でぐるぐる巻きにされた赤ちゃんの姿を。これは一体何をしているのでしょう?
たとえばこの画像です。ぱっと見るとエビフライにしか見えません。よく見ると赤ちゃんでした。包帯でぐるぐる巻きにされていました。いったいなぜこんなことを・・・。
答えは意外なところで見つかりました。ユゴーの『レ・ミゼラブル』を読み進めていると、コゼットがぼろでくるんだサーベルを人形代わりにしていたという描写に出くわします。
『「レ・ミゼラブル」百六景』という本によると、コゼットがそれを人形に見立てていたことにも理由がありました。
じつは、これは当時の母親が赤ん坊の体を包帯でぐるぐる巻きにしていた風習をまねたものである。赤ん坊の体は生まれたてでグニャグニャしているので包帯で固定してやらなければならないと考えられていたのである。ジョルジュ・ラトゥールの『聖誕』(レンヌ美術館)には、この包帯でぐるぐる巻きにした幼な子イエスが描かれている。この習慣はルソーの批判にもかかわらず十九世紀前半まで生き延びていた。女の子たちは、そのぐるぐる巻きの赤ん坊を模したこけし型の人形をあやすのが好きだった。
だそうです。ジョルジュ・ラトゥールの『聖誕』という絵画を調べてみると、このような作品でした。
たしかにぐるぐる巻きにされています。現代人の価値観からすれば謎風習としか言いようがありません。私自身も『「レ・ミゼラブル」百六景』を読んで偶然包帯でぐるぐる巻きにすることの理由を知りました。
いまでも「おくるみ」という布があります。これは、赤ちゃんを包む布のこと。寝かしつけるときによく使うもので、赤ちゃんをリラックスさせる効果があります。私はそういうものを目にしたことがない(自分の幼少時の記憶にも当然ながらない)のですが、楽天などで販売されていることから察するに一定の需要はあるのでしょう。
この包帯でぐるぐる巻きにするというやり方ですが、過度な締め付けが、血液循環や呼吸に悪影響を与える可能性があることが指摘されていたようです。でも纏足みたいに意図的に身体機能を奪おうとしていたわけではないのですから、包帯でぐるぐる巻きにしたら息がしづらいだろうなというのは素人でも想像がつくはずです。なぜそんなものが19世紀まで残っていたのか、不思議すぎる話です。まあ19世紀の医学も今にしてみればかなり非科学的な「治療法」がありましたから、「そういう時代だった」と理解しておくのが一番ラクなのかもしれません・・・。
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