バロック名曲集のようなCDを買ってくると、割と高い確率で遭遇するのが「アルビノーニのアダージョ」です。アルビノーニは、1671年生まれ。1751年に没したイタリアの作曲家です。当時はバロック音楽全盛期。バッハは1685年生まれで1750年没ですから、彼の生涯の中にバッハの生涯がすっぽりと収まる計算になります。ちなみに古典派の代表たるモーツァルトが生まれたのが1756年です。ということは全然時代が違うということになりますね。

さてこのアルビノーニですが、他にもオーボエ協奏曲などで知られていますが「アルビノーニのアダージョ」は彼の作品ではありません。ウィキペディアによると、
『アダージョ ト短調』は、レモ・ジャゾットが作曲した弦楽合奏とオルガンのための楽曲。弦楽合奏のみでも演奏される。1958年に初めて出版された。

この作品は、トマゾ・アルビノーニの『ソナタ ト短調』の断片に基づく編曲と推測され、その断片は第二次世界大戦中の連合軍によるドレスデン空襲の後で、旧ザクセン国立図書館の廃墟から発見されたと伝えられてきた。作品は常に「アルビノーニのアダージョ」や「アルビノーニ作曲のト短調のアダージョ、ジャゾット編曲」などと呼ばれてきた。しかしこの作品はジャゾット独自の作品であり、原作となるアルビノーニの素材はまったく含まれていなかった。
本当は自分の創作なのに、数百年前の赤の他人が作った作品だと言い張っていたわけです。なぜそんなことを・・・。

それはともあれ、この作品はかなり怖い響きがします。私は今でもこの暗さにちょっと敬遠するほどです。いったいどうしてこんな怖い感じなのでしょうか。


「アルビノーニのアダージョ」が怖いのはどうしてだ

この曲は、静謐さと荘厳さを兼ね備えた旋律を持ちながらも、不安や哀愁、時には死や喪失といった感情を呼び起こす特性を持っています。美しい曲である反面、それが人々に「怖さ」を感じさせるわけですね。

まず何より「アルビノーニのアダージョ」は、緩やかで持続する旋律が特徴的ですね。息の長い、ゆっくりとしたテンポと豊かなハーモニーが印象深いです。このような緩やかな構成は、聴く者に感情の奥深くをじくじくと掘り起こすような効果を持っています。特に、オルガンや弦楽器が生み出す低音の響きは荘厳かつ物悲しい雰囲気を醸し出します。オルガンといっても、ただのオルガンではなくて、小学校の薄暗い音楽室に鎮座しているような趣があります。嫌でしょう。私も嫌です。これが不安や心のざわめきをもたらします。

また、この楽曲が採用する「ト短調」は、悲しみや哀愁を連想させる力があります。短調は一般的に感情を深く掘り下げる性質を持ち、「アルビノーニのアダージョ」ではその性質が最大限に活用されています。結果として、この曲を聴くと「何か取り返しのつかないことが起こったのではないか」という感覚が生じ、漠然とした恐怖を感じることがあります。新興宗教が地球の破滅をイメージさせる映像を見せて信者を洗脳するとしたら、この音楽ってけっこうハマってると思います。このト短調は、モーツァルトなら『交響曲第25番』『交響曲第40番』といったデモーニッシュな雰囲気を湛えた曲に限って使われていました。つまりそういう響きがする調性なんですね。

さらに。「アルビノーニのアダージョ」は、映画やテレビ番組で頻繁に使用される楽曲でもあります。特に、悲劇的なシーンや死を象徴する場面で使われることが多いようです。よって視聴者に「怖い」という印象を植え付ける要因になっています。そうなってくると「アルビノーニのアダージョ」=「怖い」「暗い」という印象がますます定着してしまいます。

にしても、一度「怖い」というイメージが固まってしまうと、それ以降そういう使われ方をするようになり、ますますそういう評価が定まっていくのって、ちょっとかわいそうな気がします。さすがに作曲家もそうなることまでは見通していなかったでしょうね。

参考情報ですが、パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団の録音は、比較的怖さ加減が薄めです。彼は繰り返しバロック音楽を録音していますが、どれも雅な雰囲気に満ち溢れており、聴いていて幸せな気分になれます。ブックオフなどで1枚300円くらいで買えますから、見かけたら即ゲットしておいて問題ないでしょう。