ヴァイオリン・ソナタ。それは小品ではありません。「タイスの瞑想曲」とか「愛の挨拶」とかは小品です。文字通り、小さな作品で3分から5分くらいで完結します。こうした曲の特徴は、ヴァイオリニストが主役で目立つように書かれているということ。ピアニストはあくまでサブ。だからピアニストはヴァイオリニストがキラキラするようにサポート役に回ってくれます。

しかしヴァイオリン・ソナタは、ジャンル名から察するにヴァイオリニストが主役のように思えてしまいますがピアニストの役割も大事、というか50:50とみて良いでしょう。主題をそれぞれが歌うような場面も多く、ヴァイオリニストがピアノの伴奏に回るような局面もあります。

ベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』なんて、演奏によってはヴァイオリニストとピアニストが決闘しているように聴こえてしまいます。ウィキペディアにはこう書いてあります。
ベートーヴェンの作曲したヴァイオリンソナタの中では、第5番『春』と並んで知名度が高く、ヴァイオリニストのロドルフ・クロイツェル(クレゼール)に捧げられたために『クロイツェル』の愛称で親しまれているが、ベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ』である。

ベートーヴェンは生涯で10曲のヴァイオリンソナタを書いたが、特にこのクロイツェルは規模が大きく、王者の風格をそなえており、ヴァイオリンソナタの最高傑作であるとされる。ベートーヴェン以前の古典派のヴァイオリンソナタは、あくまでも「ヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ」であり、ピアノが主である曲が多いが、この曲はベートーヴェン自身がつけた題の通り、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴的である。技術的にも高度なテクニックが要求される。
こういう曲なだけに、弾くほうはもちろんお客さんも大変。私はいまいち好きになれません。なんだか問い詰められているような風情があって、苦痛を感じてしまいます。

さて私もベートーヴェンの『ヴァイオリン・ソナタ 第5番 春』を演奏することになってしまいました。1年前に「先生、これやります」と宣言した自分を恨んでも後の祭り。地味に難しい箇所が連続し、サマになりません。

一応譜読みは終わらせ、本番に向けてピアニストと稽古に入らなければならないのですが、一体、2人でのリハーサルを何回すればいいのでしょうか。一度ですべてがOKになるとは思えません。

先生に相談してみたところ、最低3回くらいは必要なようです。通しで演奏しても20分はかかりますし、スムーズにすべてが流れていくわけではなく、詳細を詰めていく必要があります。

大体、初回は基本的なテンポ感やアーティキュレーションの確認。2度目に細部の調整。各楽章ごとの細かい合わせやずれやすいところの確認をしなければなりません。そして本番前に通して全体の流れを確認します。ということはやはり3度は必要になりそうです。

しかし。私もピアニストも社会人なのです。私が一応破綻なくヴァイオリンのパートを弾けるようになってから本番までの時間は限られています。そのなかで3度、スケジュールをすり合わせてまとまった時間を確保せよと? 無理じゃないのか?