アーティゾン美術館で開催されている「ひとを描く」展(2024年11月2日~2025年2月9日)は、古代ギリシア陶器から近代ヨーロッパ絵画まで幅広い時代の人物表現を取り上げた展覧会です。この展覧会では、石橋財団のコレクションを中心に、古代から近現代に至る85点の作品が展示されています。入場料は事前予約なら1,200円、当日窓口購入でも1,500円とさほど高くはないものの、かなり見応えがある展覧会となっています。1時間もあれば十分見て回ることができるので、東京駅付近に立ち寄ることがあればちょっとまわり道になってしまったとしても訪れる価値があるといえます。

展覧会の初期セクションでは、古代ギリシアの陶器が展示されています。なぜギリシア? 察するに、絵画だけではなく、「ひと」を表現した相当昔の作品ということで、陶器に描かれた人の表情はどのようなものであったのか、またその技術のほどは、というあたりを示したかったのでしょう。

例えば、「ブーローニュ441の画家」による《アッティカ黒像式頸部アンフォラ「ヘラクレスとケルベロス図」》(紀元前520~510年頃)や、「ロチェスター・グループ」による《アプリア赤像式レキュトス「婦人図」》(紀元前340年頃)など、古代の英雄や人物が描かれた陶器は、その時代の物語や人々の美的感覚を反映しています。

さらに、もしかするとこれは滅多に見られないかもしれない、ひょっとするとこれが最初で最後かもしれない、そう思う作品があります。長谷川路可が「アルドブランディーニ家」の模写という作品を描いています。いやこれは模写だから描き写している、というほうが正しいでしょう。古代ローマ時代の壁画の模写です。模写するなら他にもピカソとかゴッホとかたくさん作品があったはずなのに、一体なぜローマなのかは謎ですが、今ここに蘇ったかのようなリアリティがあります。他にも彼は模写を多く遺しており、この展覧会で見ることができます。

次に、近代ヨーロッパの肖像画や自画像が展示されています。ポール・セザンヌの《帽子をかぶった自画像》(1890–94年頃)は、画家自身の新しい表現技法の試みとして重要です。また、ピエール=オーギュスト・ルノワールの《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》(1876年)は、優雅な女性像と彼の生活との関わりが感じられる作品です。

このほか、アングルの未完成? 作品とはいえ確かな技術力を持っていたことが伺われる「若い女の頭部」。ぜひ近づいて見てください。その端正な筆致に心を奪われるはずですから。
さらにはマティスやピカソ、ルノワールといった誰もが知っている画家たちの作品がずらりと並んでいます。個人的にはマネの《オペラ座の仮装舞踏会 》が素敵だと感じました。あえて曖昧な筆使いにすることで舞踏会場の活気を表現しようとしているのだとか。もう150年以上も昔の作品ですが、これを見ているとなんだかそう遠い昔のできごとではないように思えてくるから不思議なものです。

というわけで、この1年は家から近いわけでもないのに結果的に年に何度もアーティゾン美術館を訪れることになりました。来年もまたセンスが光る展覧会が開催されることに期待したいです。