2024年11月3日(日・祝)、サントリーホールで開催された東京都交響楽団プロムナードコンサートNo.410。これを指揮したのはタビタ・ベルグルンドさん。ヒューストン響、ミネソタ管、イェーテボリ響など欧米のオーケストラに客演した新進気鋭の指揮者であり、このたびの都響でのコンサートが指揮者としての本格的な日本デビューだとされています。

プログラムは次の通り。
シベリウス:交響的幻想曲《ポヒョラの娘》op.49
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲《展覧会の絵》

まず「ポヒョラの娘」の臨場感に驚かされました。低弦が終始生き生きとしており、立体感を伴って意味深く音を響かせています。それでいてチェロやコントラバスばかりが突出しているかというとそうでもなく、この作曲家に特に求められるバランスや見通しの良さは常に確保されており、都響のアンサンブル能力の高さをうかがわせるとともにリハーサルできっちりと仕上げようとしたであろうベルグルンドさんの仕事の丁寧さが際立ちます。

続くグリーグの『ピアノ協奏曲』は、CDではシューマンの協奏曲とカップリングされがちな作品です。私が持っているCDもそういうまとめられかたをしてしまっています。ピアノ独奏はホーヴァル・ギムセさん。力強いタッチとともに音楽は常に安定しており、筋肉質な音楽でした。(いや、家で聴いているグリーグのCDは繊細なタッチで知られるピアニストのものなのでそういうふうに感じてしまっただけかもしれないが。)ここでは北欧風の、というよりも東京都交響楽団の性格が現れたように感じられます。なんとも機能的・大都市的というか、その反面やや潤いが欲しいと思ったのは事実です。

休憩を挟んで『展覧会の絵』、これを楽しみにしていた人も多かったのではないでしょうか。なにしろHPを見ると「完売御礼」なんて書いてあるくらいですから、そうとうお客さんも期待していたはずです。

『展覧会の絵』は作曲のエピソードを調べればわかるとおり、画家であった友人への追悼の念も込められています。「ポヒョラの娘」で感じた見通しの良さはプロムナードから明らかであり、金管楽器が高らかに鳴り響くさまは、この指揮者が紛れもなくこの先に多くのものを持っていることを示唆していました(若手つまりあと数十年は働くのだから当然だが)。

この曲においてはオーケストラは終始丁寧に鳴らされ、カタコンベであれババ・ヤガーであれつねにコントロールが行き届き、いわば高級車のシートに座っているような安定感に溢れていました。そしてたどり着いた「キエフ(キーウ)の大門」でも期待通りの壮麗な響きがホールを満たし、終演後はブラボーの嵐でした。

客席に照明が灯り、それでも多くのお客さんが拍手を続けていたのは、今回の演奏会の満足度の高さを端的に示していたでしょう。それでS席6,500円。これは安い! たぶん東京都から補助金が出ていて、つまりはオーケストラに関心のない都民も広く薄く負担しているのでしょうけれども、とにかくこのクオリティでこの価格は安い!! 最後にお金の話になってしまいましたが改めての客演の機会を大いに期待します。