静岡県立美術館を皮切りに東京、京都、山口を巡回する「カナレットとヴェネツィアの輝き」という展覧会。私は東京会場である新宿のSOMPO美術館で見てきました。結論から言うと、入場料1,800円の価値は十分ある素晴らしい展覧会でした。ヴェネツィアという街への思い入れが強いだけかもしれませんが、きらびやかな海、青い空とところどころに浮かぶ雲、人々のざわめき・・・。私がこの街で見た風景をまざまざと思い出させてくれる絵画がずらりと展示されていました。

「思い出させてくれる」。それもそのはず、この展覧会はカナレットを中心に同時代の画家を主に展示していますが、当時はイギリスの貴族の子弟たちは「グランド・ツアー」という欧州旅行の旅を自らの学修の総決算として実施しており、旅の記念としてヴェネツィアを描いた絵画を持ち帰り、その後の思い出としていました。そういうニーズを満たすものとして数々の作品が描かれ、一つの時代の輝きをも今に示すものとなりました。

展覧会ではヴェネツィア鳥瞰図から始まり、この水上都市を大まかに理解するところから始まります。ずいぶんと親切設計ですね。

そしてサン・マルコ広場や、運河で行われるレガッタ、昇天祭など様々なテーマでヴェネツィアの栄華を表現した絵画がずらりと並びます。作品を一つ一つ見ていくと、必ずしも絵画は現実を忠実に再現したというわけではなく、「実際にその場に行ってもそういう見え方はしない」というデフォルメが加えられていることがわかります。例えば「この教会はこの建物からそんなに近い場所に建ってない」とか、「広場の反対側にはこういう建物があるから、こういう眺望はありえない」とか。また、その高さに画家が立つことができたはずはないから、そういう視点から描写できてるのはおかしいとか。

それは、カナレットら画家たちがカメラ・オブスキュラ用いつつ、事前に素描をいくつも準備して、それらを組み合わせたうえでバーチャルに作り上げたものでした。「旅の記念」としての絵画であれば、現実を飾り立ててより華やかに見せたほうが売れるに決まっています。だからこういう「再構築」もアリだったのでしょう。

展覧会では、カナレットとは別の時代、かつ非イタリア人の画家の作品も紹介されています。ヴェネツィアに魅せられた画家たちは、彼らなりのどのような表現をしたのか・・・。そういうわけでホイッスラーやブーダン、モネのような画家たちがそれぞれのヴェネツィアを描いています。しかし明らかにタッチが違う! 別人が描いているので違うのは当然ながらも、同じ風景でも人が違えばここまで違った景色になってしまうのかと驚かされます。

特にモネが描くヴェネツィアは必見でしょう。パリの風景とかオペラ座の情景とか睡蓮とか、印象派といえばそういうフランスの景色がセットで頭の中に浮かんできます。しかし今回はヴェネツィア。イタリアです。結局もろに印象派のタッチなのですが、写実的であったカナレットとは異なり、しかしそれでいてやはりヴェネツィアであることには変わりはないのでした。

「カナレットとヴェネツィアの輝き」という展覧会は、数十点の作品ということで一時間もあれば十分ですが、大変気づきの多い充実したひとときを過ごすことができました。展覧会で図録を買ったのは初めてのことでした。ついでにサンリオ株主の私はヴェネツィアで遊ぶハンギョドンのシールも買いました。もしかしたらもう一度足を運ぶかもしれません。