「幸運の女神には前髪しかない」は、ヨーロッパに伝わることわざで、「チャンスは訪れたその時に掴まなければ、後から気づいて追いかけても捕まえることはできない」という意味です。前髪しかないというと後頭には髪の毛がつるつるで、禿げているように思えてしまいます。嫌な表現ですがとにかく前髪しかないのでそのときにチャンスを掴まないともう二度と同じ幸運は巡ってこないということが言いたいのでしょう。
これは選挙に出馬しようとするアメリカ大統領候補も同じようです。バラク・オバマ大統領はノーベル平和賞を受賞したりビン・ラディン暗殺計画を実行したりとそれなりの業績を上げた人物として知られています。もちろんアメリカ史上初のアフリカ系大統領でもあります。
上院議員としてもやはりそのルーツから注目される存在となった彼ですが、しばらく上院議員としての職務に励むうちに、社会の変化のスピードを促す必要があることに気づいてしまいます。そうする一方で周囲からの期待も高まり、「いずれ大統領選挙に立候補するのでは」という憶測が流れるようになってきました。そんなあるとき、上院議員を40年以上務めたエドワード・ケネディと話をする機会を得ました。彼は将来の大統領にこう告げるのでした。
「人々を鼓舞する才能は、誰もがもっているものじゃない。そして君にとって、今のような瞬間だってそうあるものじゃない。君はまだ準備ができていない、もっと別の機会に出ればいいと思っているのだろう。だがな、君が機会を選ぶのではない。機会のほうが君を選ぶのだ。君にとって唯一となるかもしれないこの機会を君自身の手でつかむか、そうでなければ機会を逸したという思いを一生抱えて過ごすか、そのどちらかだ」
熟慮の末、オバマは大統領選挙に立候補することを決意しています。なぜあなたが大統領なのか、あなたでなければならない強い理由があるのかと妻ミシェルから問いただされると、彼は即答しました。
「僕が最後までやり通せる保証なんてどこにもない。それでも、確実にわかっていることが一つある。僕が右手を挙げて合衆国大統領への就任を宣誓したその日から、世界はアメリカをこれまでとは違う目で見はじめるだろう。国中の子どもたちが、黒人の子も、ヒスパニックの子も、周囲になじめないでいる子たちもみんな、自分自身を新しい目で見つめはじめるだろう。彼らに新しい地平が開かれ、可能性が広がる。それだけで十分に意味があると思うんだ」
こうして彼は長い選挙戦を戦い抜き、見事2009年からアメリカ合衆国大統領としてこの国を8年間統治することになりました。
しかしもしこのとき立候補していなかったらどうなっていたでしょう。もしかするとタイミングを逃して、そのまま上院議員として仕事を続け、やがて「賞味期限切れ」を迎えていたかもしれません。
やはりキャリア選択には(他の物事もそうなのでしょうけれども)そのときに吹いている風があって、その風に乗れるか・・・、つまり幸運の女神の前髪を掴めるかどうかによって人生が左右されてしまうのでしょう。「その時」を逃さなかったバラク・オバマは、やはり大統領としての器を備えた人物だったと言わざるを得ません。
参考書籍
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