当たり前すぎる話ですが、読書は集中力と深い思考を要する活動です。このため落ち着いた場所で本を読むほうが、騒がしい場所で読むよりもずっと良いですね。
まず、静かな環境であればあるほど、じっくりと集中できます。読書中に周囲の音や人の動きが気になると、思考が中断され、内容を理解するための深い集中や、行間を読むための想像力が働きません。落ち着いた場所であれば、このような障害を最小限に抑えられるわけですから、読書体験をより充実したものにすることができます。
また、落ち着いた環境は、読書を通じて得られる知識や洞察をより深く咀嚼し、自分の考えとして整理する時間を与えてくれます。たとえば、公園とか書斎のようなリラックスした場所では、思索にふける余裕が生まれ、読んだ内容をより深く理解し、自分の経験や知識と結びつけることができるはずです。逆に、騒がしい環境や急かされる場面では、深く考える余裕がなく、せっかくの読書が表面的な理解にとどまりやすいということは、誰もが経験則から分かりきっているでしょう。たとえば通勤電車では『罪と罰』のような重厚長大な小説を読むのにふさわしい環境とは言えません。
さらに、落ち着いた場所での読書は心の安定にもつながるでしょう。心が穏やかな状態では、情報を受け入れやすくなり、ストレスの軽減にも役立ちます。結果として、落ち着いた場所での読書は単に知識を得るだけでなく、心身のリフレッシュにもつながるため、非常に有効だといえます。
・・・が、世の中にはやはり時と場所を選ばず読書をするというとんでもない奴がいます。
ナポレオンです。彼の優れた指揮能力は膨大な数の本を読むことで養われたと言われています。いつも戦場には馬車で大量の本を持ち込んでいましたが、長期戦が見込まれる状況になるとますます多くの本を運搬するようになり、エジプト遠征に出発するときは1000冊以上もの本を準備したようです。全部読むかどうかは別として、それだけの選択肢があることが彼にとっての安心材料だったのでしょう。
この習慣というか、輸送担当にとっては悪癖でしかないのですが、就寝前はもとより、行軍中の馬上でも本を読んでいました。彼が愛好したジャンルは戦術、戦史、歴史、政治、気象や天文だったようです。とにかく自らの司令官としての能力を強化する知識を貪欲に吸収しようとしていた様子が伺われます。
また、彼が読書の重要性を強く信じていたため、部下や友人たちにも本を読むように勧めていました。ナポレオンは一度自分で読んだ本を他の将軍や側近に与え、その内容を議論することがしばしばありました。このように、読書を通じた知識の共有と討論が彼の周囲で活発に行われていたのです。こうした知的活動を通じて、優秀だった幕僚はますます優秀になっていったことが想像されます。(最後にはロシアで大敗を喫することになりましたが。)
ナポレオンは最終的にセントヘレナ島に流刑され、孤独な日々を送りましたが、その間も彼の読書に対する情熱は続きました。島には数百冊の書物があり、彼は時間をかけてそれらを読み、特に彼自身の人生や政治についての反省を深めたと言われています。この時期には彼の回顧録も執筆され、彼は読書と書くことを通じて自己の内省を続けました。
やはり読書というものは、一冊二冊読んだ、といった程度では何も変わらないかもしれません。でも100冊、200冊と蓄積していくと、それが膨大なエネルギーとなってその人の人生を変えてしまうだけの力があると言えるでしょう。
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