2015年にスタートし、劇場版を挟みつつ2024年ついに完結を迎えた「響け! ユーフォニアム」。第3期のOP主題歌はTRUE(唐沢美帆さん)の「ReCoda」。イタリア語でCodaは「尾」とか「終わり」を意味し、音楽用語では楽曲の終結部を意味します。つまりこの作品の第3期は正真正銘の終わりであり、ついにここまでたどり着いた、最後の物語がこれから始まるのだということが言いたいのでしょう。
高校の部活というのは普通同じサイクルを繰り返します。春になって新入部員が入部して、夏に大いに練習して、夏の終わり~秋のどこかで大きな大会があって、3年生はそれで引退。幹部が交代して年が明けて、新入部員勧誘のための準備に入る・・・。
この繰り返しなのですが、ReCodaの歌詞にあるごとく「同じ音楽は二度と奏でられない」のであって、そもそも楽譜に「繰り返しなさい」という指示が書かれていたとしてもそのまま繰り返していたら平板な演奏になってしまいますから、2度、3度と繰り返すときは1度目とは何かしらの変化をつけるべきでしょう。『響け!ユーフォニアム』においても、このことは制作の時点で意識されていたはずであり、だからこその最終回でのあの最後のシーンが描かれているのであって、似たようなことの繰り返しであってもそれは毎回違う(同じ音楽は二度と奏でられない)ものであり、過去からの(先輩からの)蓄積が今ここにいる、私(たち)を経由して未来へ(後輩へ)手渡されていくことが示されているのでしょう。
また、『響け!ユーフォニアム3』について考えるにあたってはやはりあの痛ましい放火事件についても思いを致さざるを得ませんし、この作品を通じて描かれていた「繰り返す」ことを通じて後進へ手渡されていくものがあるということは、制作スタッフの皆さんもきっと念頭に置いていたことと思われます。
世の中には「テセウスの船」というパラドックスがあります。これはギリシャ神話に由来するものであり、ウィキペディアによると「ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題をさす」。すなわち英雄テセウスの船の保存を目的として老朽化した部品を交換していったとき、いつかはすべての部品がオリジナルではなくなってしまう時がやってきます。その時、それは「テセウスの船」と言えるのでしょうか。
北宇治高校吹奏楽部においても同じことが言えるでしょうけれども、先輩から手渡された「何か」が息づいているのであれば、それはやはり北宇治高校吹奏楽部なのです。
さてベストアルバム TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』には、TV放送版とは異なる、吹奏楽の伴奏による「ReCoda」が収録されています。管楽器の音色に馴染むようにするための配慮なのか、TV放送版とは歌い方が異なり、声に張りと艶が加わっているように聴こえます。その結果、日本語がすごく聞き取りやすくなっています。そしてサビに入ってからの推進力、躍動感が素晴らしい。もうこの作品の主題歌のレコーディングをすることはおそらくないはずであり、だからこそのここ一番の歌唱だったのでしょうか。私は最近このトラックだけを何度もリピートして再生しています。優れた作品に素晴らしい主題歌、なんとも贅沢な組み合わせではありませんか。
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