ホロヴィッツといえば20世紀を代表するピアニストです。義理の父がトスカニーニというところからしてただ者ではありません。ホロヴィッツは、その卓越した技術で知られていました。特に速いパッセージや複雑な和音、ダイナミックなコントロールにおいて他の追随を許さない演奏を披露しました。彼のテクニックは非常に精密で、どんなに難しい楽曲でもミスなく弾きこなすことができました。その演奏は、技術的な完璧さだけでなく、深い表現力にも富んでいました。特にロマン派の作品において、その情熱的な演奏は多くの人々の心を動かしました。また、スカルラッティのような、それまであまり注目されなかった作曲家の作品も演奏することで、再び注目される機運を醸成したもの功績のひとつでしょう。

彼のNYの自宅はまた豪勢なものだったらしく、居間には2台のスタインウェイのグランドピアノが鎮座し、壁にはなんと1940年代~70年代までピカソの絵画がかかっていたというのです。「腕を組んですわるサルタンバンク」という作品であり、不勉強ながら東京駅から徒歩わずか数分のアーティゾン美術館に現在それは収蔵されていました。

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ホロヴィッツが見ていた同じ作品を、今自分が見ているのだと思うと不思議な気分にさせられます。
サルタンバンクというのは、祭りの日などに様々な芸を披露する大道芸人のことであり、定住地というものがなく少人数で各地を回りつつ生計を立てていたようです。どうやら地元スペインを離れてパリで貧しい生活を送っていた若き日のピカソは、そういう生き方に共感するものがあったらしく、サルタンバンクを題材にしたのはこれが初めてのことではないようです。

この絵画は、ホロヴィッツの手を離れてからは米国の自動車メーカー・クライスラーの一族を経て日本の石橋財団が1980年に入手しています。ウィキペディアによると、石橋財団は「正味資産5,731億円を有し(2023年12月31日現在)、日本の財団において資産総額第一位(2020年)。 主たる事業としてアーティゾン美術館(東京都中央区)を運営している」。とんでもなくリッチです!

アーティゾン美術館の収蔵品は沢山あり、定期的に入れ替えを行っているので行けば必ず「腕を組んですわるサルタンバンク」が見られるというわけではなさそうですが、2024年現在、7月27日~10月14日まで「空間と作品」というテーマの展覧会が開催中であり、この期間であれば確実に見られます。インターネットで日時を事前予約すれば1,200円で入場券が購入可能ですが、今どきこれくらいの価格で企画展+常設展が見られるというのはそうとうお買い得価格と言えるでしょう。ちなみにほとんどの作品が撮影可能です(館内撮影ルールが一応ありますが)。

ちなみに、アーティゾン美術館に行く人はおそらく東京駅で下車すると思いますが、そのあとは八重洲の地下街を抜けて24番出口を登るのがベストです。否、そうしないと炎天下数百メートル歩く羽目になり、たった数分間の歩行であっても汗だく不可避です。でもたどり着いてしまえばこっちのもの、空調の効いた空間でピカソとかピサロとかセザンヌとか藤田嗣治とかの作品を堪能できてしまいます。

にしても世界的なピアニストともなればNYにマンションが買えてピカソの作品をコレクションできるんですね。いや「世界的」なピアニストですからそれくらい収入がないと夢がないか・・・。