ヴァイオリンを弾く人なら誰でも知っていることですが、ヴァイオリンというのは膠で部品がつながっています。接着剤ではありません。膠です。タンパク質と水で構成されています。しかし高い接着性を誇るため、ちょっとやそっとでは剥がれ落ちることはありません。その一方で接着剤とは異なり、水や熱を加えると簡単に剥がすことができます。このため古い楽器だろうがなんだろうが簡単に分解し、不具合を調整してまた組み立てるということが可能になるわけですね。逆に300年前のストラディヴァリウスを瞬間接着剤で補修するやつがいたらただのアホ。いや取り返しのつかない犯罪級のアホでしょう。でもスペインで油絵とか彫刻の修復に素人がチャレンジして失敗し、無惨な姿をさらす結果になったというニュースを複数回見るにつけ、いつかそういうことが起こっても不思議ではないとも思います。
他方でヴァイオリンの表面はどうか。こちらにはニスが塗られています。ニスはヴァイオリンの音色を左右するとも言われるほど重要視されているらしく、ストラディヴァリウスの音色の秘密は一説によるとそのニスによるものだとも言われていますが、どうやらそうではないようです。
【12月5日 AFP】イタリアの弦楽器製作者アントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari、1644~1737)が作った弦楽器の名品ストラディバリウス(Stradivarius)。
その特別な音色の秘密として木材や接着剤、防虫剤としての鉱液、バイオリンの形状など、専門家の間でさまざまな議論がかわされてきたが、有力視されてきたのは表面の塗装に使われた「ニス」だった。
しかしフランスとドイツの専門家チームが、4年にわたる研究の結果、ニスはごく普通のものだったと発表した。
研究チームは、ストラディバリが約30年の間に作ったバイオリン4丁とビオラ1丁のニスを赤外線で分析した。その結果、ニスの材料として使われていたのは、18世紀の工芸家や芸術家の間で一般的だった油と松やにの2種類だけだったことが分かった。(2009年12月5日 14:19配信記事、https://www.afpbb.com/articles/-/2671336より)
このニス、これもヴァイオリンを日々使っていると剥がれ落ちるという問題があります。ポジションチェンジをするたびに左手が当たり、その部分だけニスが薄くなるというのはよく耳にする話です。
私の場合は(他の人もそうだが)、肩当ての着脱のたびに肩当ての脚の部分がヴァイオリン本体と擦れてしまい、そこだけ線状にニスが剥がれてしまうという現象が起こっています。肩当ての脚はゴムチューブで保護しているのですが、それでも剥がれてしまいます。
というわけでヴァイオリン工房に持ち込んで修理を依頼するわけですが、年1回9,000円というのは地味に高い出費です。天然の素材だから仕方ないのか・・・、そう思って「これ毎年補修してるんですけど、どうにかなりませんかね」とヴァイオリンの先生に相談するも、「そうなんですよ、剥がれるんです」と当たり前のような回答が返ってきてガクッとなりました。どうしようもないようです。
牛丼からコンタクトレンズまで色々なものが値上がりしていますが、ヴァイオリンの修理料金もやはり数年前と比べるとやや高くなっているという印象を受けます。「こりゃそういうもんだ、それくらいカネがかかるもんだ」という意識でいないとヴァイオリンは弾いていられないようです。いやそれは昔からそうか・・・。
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