2024年6月30日(日)に東京藝術大学奏楽堂にて行われた「藝大第九~チャリティコンサートvol.8~」は例年開催されている、ベートーヴェンの『第九』の公演です。オーケストラに加え、合唱団を動員しなければ成立しないこの壮大な曲は、東京藝術大学こそが「年中行事」として演奏するにふさわしい作品です。
指揮は現田茂夫さん、オーケストラは藝大第九オーケストラ、合唱は藝大第九合唱団。オーケストラは音楽学部器楽科学生、合唱団は音楽学部声楽科学生によって構成されていますから、まさに藝大のオールスターゲームと言っても過言ではないでしょう。
演奏そのものは奇をてらわない正統派そのものと言って差し支えないでしょう。まあ、クナッパーツブッシュのような個性が強い指揮をしてしまうと、「そうか、これがベートーヴェンなんだ!」と学生が勘違いしてしまうおそれがありますから、そこは現田茂夫さんの教育的配慮だったのか、ともあれ一つ一つのフレーズを正確に音として積み上げてゆき、かつすべての楽器の音が周囲の音と溶け合っているのは見事というほかありません。
アンサンブルも堅牢そのもの、第1楽章展開部での盛り上がりや、第2楽章中間部の瞑想的な箇所においてとくに安定感が際立ちます。第3楽章のアダージョでは弦楽器群の整然とした進行は見事というほかありません。この他に望むべきものがあるとしたら、音楽の推進力でしょうか。ゴマンとある音符一つ一つは正確に演奏されているものの、それが横方向へ流れていくときの弾みになっているかというと、必ずしもそうではない。アンサンブルとしては問題ないはずなのに、どういうわけか音が次の音へ展開していく勢いがやや欠ける、全体的にそういう印象がありました(私みたいにヨタヨタしながらベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタひとつ弾くだけで苦労して進歩しない奴が言うのも変ですが)。これは個々の奏者のオーケストラという集団での音楽活動という経験の多寡なのか、それともそういう表現を意図的に求めた指揮だったのか、あるいは1年で学生の4分の1が入れ替わってしまうという大学オーケストラ固有の問題なのかは謎ですが、ともかくそのように感じました。
合唱団はさすがに若い人が揃っているだけのことはあり、声が若々しく勢いと厚みがあり、ベートーヴェンの『第九』を歌うための合唱としては大成功と言って間違いないと思います。歌詞は人類に対して理想を語りかけるという内容なだけに、たとえばケネディ大統領とかキング牧師の演説を想像させるような表現を志向すべきであって、内にこもるような歌い方では曲の魅力が激減してしまいます。今回の合唱は技術的にも一切問題がなく、シラーの歌詞を雄弁に音に移し替えていたと思います。
ところで奏楽堂の音響ですが、都内の他のコンサートホールと比較して、どうにもこうにも客席に向かって音が飛んでくる様子がいまいち感じられません。ジメジメした今の季節が音響的にマイナスに作用してしまった、つまり今回だけの問題なのか何なのか・・・。こればかりは他の時期の演奏会を聴いてみて確かめるしかなさそうです。
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