いまだに使い続けている某マッチングアプリの運営から次のようなメールが配信されてきました。
安心・安全にご利用いただくために、定期的にコンテンツを配信しております。
本日のテーマは【思いやりを大切にした接し方】です。
ご活動を始めたばかりの方にも、きっとお役立ちできる情報かと存じますので、ぜひ最後までご覧ください。
▼こんな経験ありませんか?
・メッセージの返事が遅い…
(中略)
・デートの当日に体調不良など都合が悪くなってしまった…
▼注意
・会う前にLINEを含めた個人情報の交換は避けましょう。
(中略)
※キャンセルせざるを得ない場合は、すぐに誠意を込めてお詫びの連絡をしましょう。その場合は、「お詫び+次回の日程候補」を提示することでお相手に誠意が伝わるかもしれません。
「思いやりを大切にした接し方」とは、マッチングアプリ・・・、というかインターネットを利用して赤の他人同士が交流する場が一番欠けているものです。ひところ「絆」とか「大切な人を守るために今は我慢の時」などという「進め一億火の玉だ」「欲しがりません勝つまでは」的な標語が流行りましたが、マッチングアプリを使っていると、人と人の間に絆など一切なく、ただ自分一人が得をしたいという芥川龍之介の「蜘蛛の糸」みたいな世界が広がっており、日本人の民度がよく現れています。
運営は「キャンセルせざるを得ない場合は、すぐに誠意を込めてお詫びの連絡をしましょう」などと発信していますが、私自身の実体験としては、女性ユーザーは「仕事が入ってしまった」「体調不良で」「(コロナの感染者が増えているので)状況に鑑み」など極めて軽いメッセージを送ってきてそれで終わり。場合によっては連絡も何もなく、当日朝に一方的に私をブロックして終わらせてしまいます。
「お詫び+次回の日程候補」を提示するのは社会人として備えているべき最低限のコミュニケーション術だと思いますが、そういうメッセージを受信したことは一度もありません。ただただ無責任なドタキャンしかありません。
東京都立大学准教授・高橋勅徳氏も結婚相談所の掲示板に次のような貼り紙がしてあったことを著作の中で回想しています。
「マッチング後のお断りは、お相手に失礼のないようにお願いします。お相手も人間であることを忘れないでください」
高橋勅徳氏は、婚活女性はコミュニケーションをしないこと、共感が大事だと言われているが「必要のない人材だ」と判断されるとそもそも共感するチャンスすら与えられず、一発シャットダウンされてしまうこと、ばかりか男は陳列棚に並べられたバッグでしかないことに気づき、結婚相談所を退会しています。
TVゲームで遊んでいると、たとえば「今川義元を捕らえました。処刑しますか? はい or いいえ?」という選択肢が与えられ、「はい」を選ぶとボタン一つで今川義元が本当に死んでしまいます。マッチングアプリで山程目にした失礼な行動はそういうTVゲームでの行動を現実世界に持ち込んだものであり、本来ならやってはいけないことです。
しかし、運営がこういうメッセージを発するほどに失礼が蔓延しているのなら、私ひとりが礼儀正しく振る舞っても何の意味もありません。むしろそれに適応し、目には目を歯には歯をで同じ行動をすれば良いのではないでしょうか。ゲーム理論でもたしかしっぺ返しが最強の戦略だったはずです。
芥川竜之介の「羅生門」では、悪事をしなければ自分が餓死してしまうのだからと、自分のやったことを正当化する老婆が登場します。その弁明を聞いた下人は、「では、己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」といって老婆の着物を剥ぎとって遁走します。これはある意味プラスマイナスゼロでバランスが取れています。よし俺もやろう。
なんだ、マッチングアプリって結局「蜘蛛の糸」とか「羅生門」の世界なんじゃないか!
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