2002年からスタートした川畠成道グランドファミリーコンサートもなんと今年で23回目を迎えてしまいました。プログラムに書かれているとおり、23年といえば子供が生まれ大学を卒業し社会人となる年月です。
これだけの長期間にわたってプロ奏者として活動を継続しているのもさることながら、23年も一つのシリーズをずっと続けているのも素晴らしいことです。1年の特定の時期にこれがある、あの人のこの催しに行ける、という老舗のような安心感。こういう感覚は年を重ねてはじめて分かるもの。
今回は映画音楽を演奏すると聞いていたので、ああそうか10年ほど前に発売した映画音楽アルバムの作品がメインなんだな、きっと哀愁ただようモリコーネが聴けるんだろうなと思っていたらそうではありませんでした。
が、冒頭に演奏されたモーツァルトの『ヴァイオリン・ソナタ 第27番 ト長調 K.379』が素晴らしい出来栄えで、つい「川畠成道さんの録音があればよいのだが」と思うほどでした。3月のフランクのソナタも完成度が高く、好演が続いています。
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタといえば28番のホ短調のものが有名で、その隣に位置しているのでちょっと不遇な気がします(ベートーヴェンの交響曲第4番みたいなものか?)。これはモーツァルト25歳の春に作曲され、どうやら1時間程度でヴァイオリンパートを書き上げたらしい。しかしさすが天才、私はこんなもの一生かかっても作れません。
モーツァルトの作品といえば明るいなかにもさっと翳りがさすような場面がところどころで見られ、明暗の使い分けがカギとなります。明るいだけでは能天気すぎますし、暗いばかりではモーツァルトらしさが欠如してしまい嫌になります。
川畠成道さんの音色はモーツァルトに適しているのかもしれません。何しろ彼のヴァイオリンから聴こえてくる音は、なぜかどことなく哀感が基調となっているような、「味は塩にあり」とも言えるような儚さが漂います。こうした大人の音は、コンクールで優勝したばかりの若手ヴァイオリニストからは全く聴こえてこないのです。これは本当に不思議なものです。理由はよく分かりません。年輪というやつでしょうか。
この音色が、モーツァルトの音楽に封じ込められた明るさや切なさにぴったり。ところどころで聴かれる懐かしい響きは、グランドファミリーコンサートと題した催しに込めた想いの表れでしょうか。
このほか、「アルハンブラの想い出」や「ひばり」で、「この曲の弾き方を教えることはできない」と解説されていたのが印象的でした。たしかに技術的に「ここは上げ弓で、そのあとすぐに下げてまた上げて。重音奏法のときの力の入れ方はこれくらいがちょうどいい」のようなコツを言葉で伝授することはできても、それを自らのものとして咀嚼し、センスある音楽に仕立てられるかどうかはその人しだい。
かつてシャルル・ミュンシュが「弟子にしてください」と懇願する小澤征爾さんに「いやいや、指揮の方法は教えられないんだ」と一度は断ったことが知られていますが、それもカリスマとかセンスのような、オーケストラのリーダーに求められる能力はその人の生まれついての個性に拠るところが大きく、教育がどうのこうのという問題ではない、というのが真意であろうと思います。おそらく川畠成道さんの「教えることはできない」というのも似たようなことを意図しているのだと考えます。
「川畠成道グランドファミリーコンサート2024」は、今年もここに来られてよかったと思える内容でした。来年、再来年、2030年、2040年とずっと続いてほしいと思いました。
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