渋谷区立松濤美術館で開催中の展覧会「没後120年エミール・ガレ展 奇想のガラス作家」はガレの作品をまとまった形で見ることができる、大がかりではないものの充実した催しだと言えるでしょう。
渋谷駅を降りて東急百貨店の跡地を右に、さらにBunkamuraを右手に曲がって坂を上がると渋谷区立松濤美術館が立地しています。
一見騒がしい街に見える渋谷も、じつは1kmほど歩くと(別方向だが)NHKホールがあったり、高級住宅街が拡がり、その奥は東大駒場キャンパスだったりと、案外渋谷のイメージからかけ離れているものです。
さてエミール・ガレは19世紀末に活躍したガラス工芸作家であり、ただ単に器を作ればよいというのではなく、一つ一つの器のなかに動植物や神話などのモチーフを織り込み、まさに「工芸」の名にふさわしい品々を創作しました。ほかにガレの作品をまとまった数量で見ることができるのは長野県諏訪市の諏訪湖畔にある北澤美術館ですが、なかなかアクセスが難しい場所なだけに、都内でこうした展覧会が開かれるのはラッキーとしか言いようがありません。
そして今回展示されている作品の多くは、所蔵先がなんと「個人蔵」、つまり普段はどこの美術館にも展示されていない作品だらけであり、そもそも松濤美術館がどうやってそんな個人を特定し、展示交渉を行い、この催しにこぎつけたのか謎ですが、とにかくこの機会を逃すと二度と見られない可能性が濃厚です。
一つ一つを見ていくと、当時のガラス製品の生産技術であったり、どういうデザインがこういう製品を買い求める層に求められていたのか(購買意欲を刺戟したのか)が分かり、100年以上昔の市民の考えがなんとなく伝わってきます。当然ながら今ほど工業製品に対する精度が高くはなく、工場といっても実際にはほとんど手作業で制作を進めていったはずであり、瓶ひとつ見ても手作りの味わいがあります。
驚くのが、ウランを着色料として用いた製品があるということです。ウランってあのウランなのか? 核兵器とかに使われるあのウランなのか? どうやらそのようです。ウィキペディアによると、
ガラスにウランを混ぜることによる黄色や緑色の色彩を持つ透明なウランガラスが製造され始めたのは1830年代で、ウランが原子力に利用されるようになる1940年代までの間にコップや花瓶、アクセサリーなどの各種のガラス器がヨーロッパおよび米国で大量に製造された。現在では民間でウランを扱うことが難しいために新たなものは極少量が生産されているに過ぎないが、骨董・アンティークとしてファンも多く、高値で取引されている。
と書かれており、本当にあのウランでした。といっても含まれているウランはごくわずかで、人体への影響はほとんどないようです。でもまさかウランとガラス製品の組み合わせなんて想像もしませんでした。
そこまで広い美術館ではないので30分もあれば十分周ることができます。入館料は大人800円と手頃。渋谷で何か用事があったそのついでに足を運んでみると、いいひとときを過ごすことができたなという実感を得ることができるはずです。
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