ラフマニノフの傑作のひとつが「パガニーニの主題による狂詩曲」。その第18変奏はとくに有名です。パガニーニの「カプリース」の第24番のメロディをどういじくり回したらこういうメロディになるのかよくわかりませんが、とにかくパガニーニが考案したメロディなのにいつのまにかラフマニノフになっていたというもの。

この第18変奏はヴァイオリンとピアノにも編曲されており、様々なヴァイオリニストがCDをリリースしています。なぜこんなにたくさんのヴァイオリニストが録音しているのか・・・、それだけリクエストが多いのでしょうね。

ヴァイオリンという楽器は大変厄介であり、2歳とか3歳のころから集中して練習しなければプロにはなれないものと相場が決まっています。チューバとかクラリネットとかティンパニは全然そうではないのに、ピアノとヴァイオリンだけは幼児教育がカギらしいのです。私自身もヴァイオリンを弾きますが理不尽なものです。

東京都出身のヴァイオリニスト、川畠成道さんは小学生のときに薬の副作用がきっかけで視力の大部分を失い、それでも将来何らかの職業に就かなくてはというご両親の考えのもと、ヴァイオリニストの道を歩むことになりました。お父さん自身もヴァイオリニストであり、10歳からこの楽器を習うことがどれほど不利であるか分かりきっていたからこそ、毎日付きっきりで指導されていたようです。

1998年に川畠成道さんはプロデビューを果たし、以後多数のCDを発表しています。
そのなかの一つ、『Moon River ― 川畠成道映画音楽を弾く』はマイケル・ジャクソンが好きだったという「スマイル」やモリコーネの代表作である「ガブリエルのオーボエ」、『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」のほか、「パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏曲」を含む16曲が収録されており、どれも短くて聴きやすく、ヴァイオリン好きなら持っておいて損はないCDでしょう。

とくに若手のヴァイオリニストに多いのが、「技術は達者だけれど、その人独自のトーンがないから目を閉じて聴いたら誰の演奏なのか分からないや」という問題です。川畠成道さんの場合は、過去記事
感想:「川畠成道チャリティプログラム2024」でのフランクの『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』が素晴らしい出来ばえだった
に書いたとおり、「ちょっと哀愁を帯びたシルバーとかグレー系の音色」であり、自分の音色を持っていることは間違いないです。このCDのブックレットにおいて、川畠さんは
ほとんどの曲は、子供の頃より度々耳にしたことのあるシンプルなもの。そのシンプルな美を損なうことなく魂を吹き込み、自分なりの表現をつくり上げる作業は、難しくもあり又、音楽家としての原点に立ち返る貴重な時間であったと思います。
と述べておられます。CDに収録された「パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏曲」を耳にしてみると、やはり甘いメロディのなかにもどこか切なさが漂っており、この二つの特徴が絶妙のバランスで成り立っています。

川畠成道さんは年に数回リサイタルを開いています。最近では浜離宮朝日ホールで開催していることが多いようです。都心にお住まいでしたら一度足を運んでみてください。過度な情緒を排した品のある演奏は、やはり現場で鑑賞してその良さがはっきりとわかるというものです。