クラシック音楽というとどうしてもサントリーホールとか東京文化会館とかの大ホール、それにオーケストラというイメージがつきまといがちです。人気漫画『のだめカンタービレ』でも指揮者を目指す青年が主人公なので必然的にオーケストラが登場します。
オーケストラとなると、演奏曲はブラームスの『交響曲第1番』とかベートーヴェンの『交響曲第5番』とか、ホルストの『惑星』とか、要するに交響曲とか管弦楽曲になります。休刊してしまった音楽之友社の『レコード芸術』もCD評は交響曲、管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、器楽曲という並びになっていて、いかにも「これがジャンルの序列です」という印象を受けます。実際、クラシックを巡るジャーナリズムもオーケストラと指揮者を中心となりがちで、なぜそうなるのかというと結局は読者の関心がそこに向いているからなのでしょう。
というわけで地味な立場になりがちな室内楽ですが、編成がオーケストラほどではないからといって作品が劣っているわけではありません。ハイドンもモーツァルトもベートーヴェンもショスタコーヴィチも、室内楽というジャンルで珠玉の名品を生み出しています。
私が本日(2024年3月30日)にHakuju Hallで聴いた「作曲家シリーズ Vol.2 室内楽コンサート チャイコフスキーが聴きたい」も充実した催しでした。
特定の作曲家の室内楽を集中的に聴ける「作曲家シリーズ」
このシリーズの前回は2022年に開催され、メンデルスゾーンを採り上げていました。
今回はチャイコフスキー。ピアノ三重奏曲『偉大な芸術家の思い出に』をメインに、「懐かしい土地の思い出」などを前半に配置しています。
ヴァイオリニスト石原悠企さん、チェリストの藤原英章さん、ピアニストの野上真梨子さんはいずれも若手の俊英であり、今後の飛躍が期待されます。
石原さんのヴァイオリンは重厚深長な音色で圧巻のチャイコフスキーを聴かせてくれました。いや、曲目がチャイコフスキーだったからそういう音色を用いたのでしょうか。モーツァルトやメンデルスゾーンだったらもっと違った表現をしていたのかもしれませんが、厚みのある音色で奏でる「懐かしい土地の思い出」は情緒たっぷりにカンタービレが効いており、充実した演奏でした。
プログラム後半の『偉大な芸術家の思い出に』は、文字通りチャイコフスキーが親友ルビンシテインの追悼のために作曲されたものであり、演奏時間は45分を超える大曲です。チャイコフスキーの、いやロシアの室内楽の中でも最高傑作と言っても過言ではないでしょう。
残念ながら演奏頻度はそれほど高くないのでこれが聴けるだけでもかなり貴重ですが、本日の演奏は「追悼のための曲」ではありながらも(この作品がプログラムに採用されたのも、ウクライナ侵攻の犠牲者への追悼の意を表するためでもあった)、3人の演奏家がそれぞれ全力を振り絞っての演奏であることがすべての音からはっきりと伝わってきました。ただ悲しむのではなく、演奏家が自らの力を最大限に発揮し、音楽の素晴らしさを社会へ発信することが、演奏家だからこそできる平和を維持するための役割の果たし方であると言えるでしょう。
下世話な話ながら、チケット一枚3,000円というのは演奏の質の高さを考慮すると、明らかに「価値>価格」となっており、下手にオーケストラのコンサートを1回通うよりも、こうした催しのチケットを2回購入するほうがコスパとしては優ると思います。
ちなみにコンサートとは無関係ながら代々木八幡駅周辺はなぜだか大変な混雑でした。なにかイベントでもあったのでしょうか・・・。人の多いこと、多いこと。狭い道に人が溢れて、正直辟易しました。
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