おそらく20年ぶりくらいであろうと思われる、『銀河英雄伝説』の再読を始め、4ヶ月ほどかかって第1巻から外伝の5巻までたどり着きました。主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムやヤン・ウェンリー、ジーグフリード・キルヒアイスやユリアン・ミンツといった中心人物を始めとしオーベルシュタインやビュコック、ミッターマイヤーやアッテンボローといったキャラクターと再会できたのは心躍る読書体験でした。
外伝の5巻(私が読んだのは創元SF文庫版)には、作者田中芳樹さんが自作について応えたインタビューが掲載されています。そのなかでラインハルトの生き方が単純なものだった、と語っており、ビッテンフェルトと似ているという意外な(でも言われてみればその通りな)コメントをしています。
ラインハルトというのは、ある意味で単純なキャラクターです。戦術的洗練度は置いておいて、生きかたとしてはラインハルトは単純です。目標を掲げてそこに全力疾走していって、当たるをさいわい跳ねとばしていくという、まあ、ビッテンフェルトと似ているんですよ(笑)。
ラインハルトが全力疾走していくので、誰か屈折したキャラが欲しくなってきたんです。ほんとうにラインハルトというのは、ある意味で単純なキャラクターですね。じつはビッテンフェルトと似ているんですよ(笑)。
インタビュアーも、「ビッテンフェルトがラインハルトを慕ったのも、そのあたりに理由があるのかもしれませんね」と相づち。
確かに、ラインハルトの生き方というのは姉アンネローゼが皇帝のもとへ連れ去られてしまったので、銀河帝国を潰してやろうというもの。これに尽きます。そのために幼年学校に入り、首席で卒業して親友キルヒアイスとともに前線へ。そこで功績をあげて昇進の道を最短距離で駆け上がり、権力を手中に収める、ついには全権を掌握して銀河帝国最後の皇帝を退位させ、自らがローエングラム朝の初代皇帝として即位する、というもの。ただその道のりのなかで親友キルヒアイスを失い、姉の存在も遠ざかってしまうという出来事がありましたが・・・。
行ってしまえば豊臣秀吉のように成り上がっていく話ですが、その単純ともいえるルートを華麗に突き進むのが『銀河英雄伝説』の面白さ。ただ作者としては
姉ちゃんを連れて行った相手が皇帝だったから、帝国をぶっつぶそうという話になったんで、街の小金持ちだったらどうなったかな、と作者は意地悪なことを考えるわけですね。
例えば街の絵描きにとられたら『銀河画家伝説』になっていたかもしれないわけです。
外伝5巻に掲載されている「朝の夢、夜の歌」では、キルヒアイスとラインハルトの次のようなやり取りが交わされています。
「夢の小さな者を軽蔑なさいますか、ラインハルトさま」
ラインハルトは、
「夢の大小はともかく、弱い奴は、いや、弱さに甘んじる奴は、おれは軽蔑する。自分の正当な権利を主張しない者は、他人の正当な権利が侵害されるとき共犯の役割を果たす。そんな奴らを好きになれるわけがない・・・」
なぜこういう発言をする人となりとなっていったのかを考えてみると、アンネローゼをさらっていったのが皇帝でよかった・・・。
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