2024年3月23日(土)に浜離宮朝日ホールで開催された「川畠成道チャリティプログラム2024」。プログラムの前半にはフランクの『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』、後半には寺嶋陸也さんの初演2作品を含む小品の数々が演奏されました。

いや驚きましたね。フランクの完成度に。川畠成道さんの音色はいつものようにちょっと哀愁を帯びたシルバーとかグレー系の音色です。これまで川畠成道さんの演奏といえばベートーヴェンやバッハなど、ドイツ系音楽をよく聴いていましたが・・・、フランス・ベルギー系のソナタは聴いたことがありませんでした。ものすごい損失でした・・・。

川畠成道さんがプロの演奏家としてデビューしたのは、たしか日本フィルハーモニー交響楽団、指揮・小林研一郎さんのもとメンデルスゾーンの『ヴァイオリン協奏曲』だったはず。1998年のことでした。その前年に英国王立音楽院を史上二人目となるスペシャル・アーティスト・ステイタスの称号を授与されるという栄誉とともに首席卒業し、そのことが朝日新聞の「天声人語」で紹介され、その記事を読んだ日本フィルハーモニー交響楽団側がご家族に連絡し、という流れでした。それから月日は流れ25年が経過。フランクの『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』はデビュー当初から何度も演奏してきた作品だとか。


堂々とした不撓不屈のフランク

そもそも伴奏ピアニストを務めた寺嶋陸也さんのごつごつとした力感のある演奏が特筆すべきものだったことをまず触れておかなければなりません。私はこのピアノを聴いて、フランクの『ヴァイオリン・ソナタ』への認識を改めることにしました。

フランス系の音楽といえば一つ一つの音のニュアンスを重要視するとでも言いましょうか、ドビュッシーなどにそれは明らかですが、ベートーヴェンのような剛直さで勝負するという体裁ではありません。

が、この日のフランクは唐突にバックハウスを思い出すような力強さに溢れていました。曲の出だしは調性感がはっきりしないぼんやりとしたもの。私は、職場で後輩に仕事を教えていると「なんですか~」とポケ―っとした反応をされて内心ムッとすることがあります。世の中の99%のフランクの『ヴァイオリン・ソナタ』はそういう始まり方をするのでやはり私はムッとします。その点寺嶋陸也さんの演奏は楽譜に忠実でありながらも(当たり前である)、タッチに力感があり輪郭がはっきりしています。これは心強い。これに応えるかのように川畠成道さんも入魂の演奏です。愛器ガダニーニもこの日はとくに鳴り響いていました。確固とした存在感のある音が全曲30分近く続くわけですから、聴く方としても緊張を強いられます。しかし詩情溢れる第1楽章、激情がほとばしるような第2楽章を経てRecitativo-Fantasiaの第3楽章へゆくと景色は一変します。第3楽章の後半になるとあの有名なメロディが切々と歌われます。この部分のなんと共感に満ちていること。

第4楽章は結婚式でもたびたび演奏されることからわかるように、いわば感謝の歌とでも言いましょうか、清々しい情感に満ちたもの。音楽はますます輝きを増し、堂々たるものになりました。出だしの部分から自信に満ちています。私の家にはフランクのソナタを収めたCDは数枚ありますが、どれもこういう歌い方ではないだけに(女性の弾き方、男性の弾き方なんてあるのでしょうか。CDはたまたますべて女性演奏家です)新鮮な思いで聴くことができました。

実はフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」というとこれまでなんとなく敬遠していました。クネクネしているような印象があったからです。が、本日の川畠成道さんの芯がある――不撓不屈といってもよい――演奏を聴いて印象はガラリと変わりました。デビュー25周年に、他にも名曲は沢山あるのにわざわざこの曲を選んだということはそれだけ思い入れがあったということなのでしょう。ここ1年ほどで通った様々な演奏家・団体の演奏会のうち、本日の川畠成道さんのリサイタルはベストと言って間違いない素晴らしい出来ばえでした。